ドイツ極右党に陰りが見え出した

ドイツで今月14日、2州の議会選挙が実施され、メルケル首相の与党「キリスト教民主党」(CDU)はいずれも得票率を落とし、メディアでは「CDUの惨敗」という見出しで報じられたばかりだが、同州議会選の結果で見落としてはならないトレンドは、これまで躍進し続けてきた極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に明らかに下降傾向が見られ出したことだ。連邦議会選を含む過去の選挙戦では連戦連勝で、前回の連邦議会選(2017年9月24日)では得票率12.6%を獲得し、第1野党の地位を確保してきた。そのAfDがここにきて勢いを失ってきたのだ。

▲メルケル政権のコロナ規制を「無計画なものだ」と批判するAfDのイェルク・モイテン党首(AfD公式サイトから、2021年3月24日)

AfDは2013年2月に結党した新しい党でまだ10年もたっていない。その新党の飛躍の理由ははっきりとしている。同党は欧州連合(EU)からの離脱を訴え、2015年の中東・北アフリカからの難民殺到時には難民受け入れに強く反対してきたからだ。特に、100万人余りの難民殺到に直面し、多くのドイツ国民はメルケル首相の“難民ウエルカム政策”に不満を持っていた。AfDは難民殺到に不安と懸念を有する国民や、外国人排斥運動の受け皿となった。AfDはドイツ国民の不安、懸念を煽ることで支持を得て、州議会選で得票率を大きく伸ばした。シンプルに表現すれば、難民がAfDを躍進させ、結党4年目に過ぎなかったAfDを連邦議会で第3党に押し上げた原動力だったわけだ。

そして今年9月には連邦議会(下院)選を迎える。ドイツの世論調査によると、2大政党のCDU・CSUと社会民主党(SPD)の後退は織り込み済みだが、AfDの低迷も予想されているのだ。ズバリ、新型コロナウイルスの感染問題でAfDは信頼を失った、というのだ(躍進が予想される政党は「同盟90/緑の党」)。

先ず、3月に実施された2州の議会選の結果を見てみよう。ドイツ16連邦州では人口で3番目(約1073万人)に大きいバーデン=ヴュルテンベルク州では、クレッチマン首相が率いる「緑の党」が同党最高得票率約32.4%を獲得し、楽々と第1党を維持したが、 AfDは前回比で得票率5%減と大きく後退し、10.4%の自由民主党(FDP)に抜かれ第5党に後退した。ラインラント=プファルツ州ではドライヤー首相のSPDが約36%を獲得して第1党をキープ、AfDは前回比3.5%減で9.1%に落ちた。

選挙のスーパー・イヤーの開幕戦だった同2州議会選の直前、与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSD)に所属する2人の連邦議員が新型コロナウイルス感染防止用マスクの調達で賄賂を受け取っていた疑いが浮上し、メディアで大きく報じられてきた。与党がスキャンダルで苦しんでいる時、本来は野党第1党のAfDのチャンスだったのだ。

ドイツでも英国発の新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るってきた。新規感染者も増加傾向にある。それを受け、メルケル政権はコロナ規制の強化策を打ち出した。同時に、コロナ禍が1年以上継続し、国民の間でコロナ疲れが見えだし、コロナ規制への不満が高まってきている。本来、野党第1党のAfDのチャンスだが、今月の2州議会選の結果や世論調査を見る限り、AfDは支持率を落としている(同2州は旧西独に所属する州だ。旧東独での州議会選の結果をみないかぎり、AfDの現時点の勢いを正確には予測できないが)。

AfDの躍進は昨年の2020年2月5日に実施されたテューリンゲン州の州首相選までで、その後は下降してきた。陰りが出てきたのは、中国発の新型コロナウイルスの感染が欧州全土に拡散し、多くの感染者、犠牲者が出てきた頃からだ。コロナ対策で政党としての限界を吐露したのだ。メルケル政権のコロナ対策を批判する一方、コロナ禍の深刻さを過小評価し、コロナ規制に反対し、マスクの着用にも抵抗を示してきた。その間、コロナ感染で感染者が増え、死者も増加していった。

AfDだけではない。隣国オーストリアでも極右「自由党」の支持率は落ちている。中道右派「国民党」と連合政権を発足していた時のような勢いはまったくなくなった。シュトラーヒェー党首のスキャンダルと同党首の解任劇(2019年5月)も影響したが、やはりコロナ政策で自由党は躓いている。同党ナンバー2のキッケル院内総務は3月、コロナ規制反対のデモ集会にマスクなしで参加し、クルツ政権のコロナ規制を厳しく批判している。その間にも同国では新規感染者数が3000人台に突入し、病院の集中治療室のベッドで空きが激減してきたのだ。

多くの国民の間には政府のコロナ規制に不満があったとしても、感染予防ではマスク着用、2mのソーシャルディスタンスが大切だというコンセンサスがある。そのような時、AfDや自由党のコロナ対策は無責任で、批判するだけの政党と受け取られてきた。問題解決の具体的な実務能力に疑問が呈されたわけだ。

シュピーゲル誌(2020年8月14日号)で興味深い統計が掲載されていた。ドイツでは極右派政党支持者はショッピングや公共運輸機関の利用の際のマスク着用には「他の政党支持者より強い抵抗がある」というデータだ。調査の結果によると、「同盟90/緑の党」と与党CDU/CSUの支持者はマスク着用に87%が「慣れた」と答え、SPD支持者は86%だ。AfDの場合、55%と低い(「極右派はアンチ・マスク傾向が強い?」2020年8月18日参考)。

ドイツでは過去、極右派テロ事件が頻繁に発生してきた。その度にAfDは批判のやり玉に挙げられてきたが、マイナスの影響を最小限度に抑え、選挙では支持を伸ばしてきた。ちなみに、独連邦憲法擁護庁は今月3日、AfDを「監視対象」とすることを決めたが、ケルン市の行政裁判所は「政党の活動を制限するためには十分な議論がなされていない」として、監視の差し止めを要請している(「なぜ極右過激テロ事件が増えるのか」2020年2月25日参考)。

AfDは2015年の難民殺到で大躍進し、2020年以降はコロナ感染問題で支持を失ってきたということになる。今年9月末の次期連邦議会選までに勢いを回復できるかは、国内のコロナ禍の状況で左右されるだろう。

気になるニュースが飛び込んできた。北アフリカのリビアで多くの若者たちが欧州に殺到する動きが見られるというのだ。地中海を超え、欧州、ドイツを目指すリビアからの難民が増加すれば、難民対策が欧州の主要テーマにカムバックする。AfDはその機会を逃さないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。