メディアによる洗脳

慰安婦問題について「(業者との)契約だった」とするハーバード大学ラムザイヤー教授の論文に対する批判の声が目立ちます。「目立つ」と申し上げたのは援護する記事があまりにも出てこないからです。メディアにとって出しにくいという事情があるのでしょう。同教授を擁護するような記事を掲載すれば出版社/メディアに対して厳しい批判の目が向けられる可能性があるからです。

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我々は言論の自由という社会に生きています。自由ですからAと主張してもBと主張してもそれは構わないし、それぞれに言い分があります。また、どちらが正しいのか、それは事象によって異なりますが、議論になるということは答えが出にくい内容だとも言えます。

日経ビジネス電子版の記事に「持ち家VS賃貸論争、データを見れば結論は出ている」というのがありました。記事のトーンは経済計算からすると持ち家が有利なのは自明という結論であります。ただ、私はこれに違和感を持っています。自明というのは経済計算だけであって人の生活が損得勘定だけでは割り切れないはずなのです。つまり、これは書き手の強い断定的主張でありますが、読み手を惑わせるものの一つなのです。事実、この手の内容にしてはものすごい数のコメントが上がっていました。

不動産ついでに申し上げると住宅関連会社が発表する不動産の人気地域ランキングもこれは誰目線なのか考えて読み解かないと誤った理解をすると思います。21年のSuumoの関東地区ランクは上位が横浜、恵比寿、吉祥寺です。不動産事業者である私としてはピンときません。同業のLilfullのランクは購入不動産では勝どき、白金高輪、本厚木、賃貸人気エリアは本厚木、大宮、葛西となっています。

これを見てお分かりなると思いますが、結局、調査機関や誰をターゲットにしている調査かでバラバラなのです。不動産は人気で選ぶものではなく、個人のライフスタイルや価値観が強く反映されるものです。つい1-2年前の人気地は赤羽、北千住、池袋だったはずでまるで違う場所に次々と変わるのは本当の意味でのランクではないのです。もしも論理で押すなら㎡当たりの売買ないし賃料価格が需給関係でいう人気ランクになるし、取引件数による分析方法もあるでしょう。

五輪開催、コロナ、接待問題など様々な社会問題に対してメディアは街角インタビューでAとBという相反する意見を取り込みます。そうしないと偏りが生じるからです。ただ、俯瞰してAが1割でBが9割の意見だとしてもマスコミがそれぞれの意見を一つずつ取り上げたらその情報の受け手は誤った方向に「誘導」される確率が5割存在することになります。

「誘導」という言葉を使ったのは一般人はその問題に対して必ずしも精通しているわけではない、あるいは問題の当事者ではないという観点に立った時、判断基準はメディアのトーンに流されやすいということです。そして読み手はその主張が必ずしも正しいかどうか十分検証することもなく、その案件は忘れ去られるのです。その時点で非当事者は判断の部分だけの記憶を植え付けられます。あの件はAだったよな、とかこれはBに決まっているよ、といった具合です。これは危険で、結論ありきの社会が生まれ、それを見返すことがなくなるのです。

特に最近のポータルサイトのニュース欄はAIが機能しているためか、ある一定の方向に振れやすい傾向がみられます。例えば私はヤフージャパンのニュースを最近ほとんど無価値だと思うようになったのは記事の並びがあまりにも陳腐で読み手の意志ではなく、ビックデータによる人の好みの「勝手な詮索」であるからです。それゆえ、私はなるべく編集されたメディアの記事を見ます。できれば紙面で見るようにしているのは編集技術による真の意味での訴え方を確認したいからです。

私自身はまだ、社会の動向を読み取る興味があると自負しています。しかし9割以上の方はそんなことには興味がないのです。考えること自体を拒否している人すら増え、スマホに聞けばなんでも答えてくれるようになったのです。恐ろしいことです。

思考能力の低下と洗脳の結果「おなかがすいたんだけど僕、今日は何を食べたらいいの?」とスマホに聞くと「今日のあなたはラーメンの日です」との答えに従う日も近いのだろうな、と思うと一抹の寂しさすら感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月26日の記事より転載させていただきました。