「ジョブ型」祭りに見る脱日本型雇用の失敗
コロナ禍での新しい働き方が定着しつつあるなか「脱日本型雇用」がふたたび唱えられています。海老原さんも「焦っている事情はよくわかる。」と言います。けれども、「ジョブ型雇用にすれば日本企業は復活する!」みたいないい加減な議論はいかがなものかということで筆を取られたそうです。
おかしなジョブ型があふれる2021年
「終身雇用はもうもたない。これからはジョブ型にしないといけない」
「リモートワークではジョブ型で職務内容を明確にし、成果も見えるようにしないと」
「新卒採用もシビアになってきた。昨今はジョブ型採用で、即戦力が重視される」
これらをじっさいに欧米の企業と比較すると、突っ込みどころが多いそうです。
欧米企業の「ジョブディスクリプション(職務記述書、JD)」を見ると、そこには意外にも「周囲の仕事も手伝う」「書かれていないことは上司の指示に従う」「業務に付随する諸々の問題を解決する」など暖味な言葉が並んでいます。むしろ限定しすぎると裁判なんかになった時に企業側が負けてしまうので慎重になるのだそうです。
日本の成果主義も異質
もちろん、ジョブ型だと成果が見えやすいというのもおかしいそうです。欧州企業の評価制度は日本よりかなり大ざっぱで、ふつうは「良い普通悪い」の3段階評価しかありません。それを2軸「業績と行動」や「業績と能力」などで行うのが主流です。ヒラ社員の賞与もほぼ固定です。業績の反映などされません。
私も会社員をやっていたときは、どうしても日本の自己申告制度は上司のいびりの道具になっているようにしか思えませんでした。
要するに、ジョブ型雇用や成果主義が何たるものか、われわれはあまり理解してないのです。たぶん日本中の多くの人は、ジョブ型とは「職種別に採用すること」程度に思っているのかもしれません。(この記事を読んでいる方はそんな単純なものではないと百も承知だと存じます)
60年も続く「脱日本型雇用」論争
実は戦後75年の間に、脱日本型雇用の話は何度も花盛りとなったそうです。
「過去の成長性が高かった時代には、放っておいても日が当たって、外の風に吹かれて、自然に人材が育ったんです。でも、もはやそういうことはあり得ない。これからはリーダー候補を見つけてきてリーダーを育成する人事システムが必要になってくるのではないでしょうか。従来の育成体系の中のリーダー育成とは別に、いかに早い段階でいかにビジネスリーダーの資質のある人を発掘していくかでつくる必要がある」(人事課長)
これはバブル崩壊後の1990年代中盤長期不況にあえぐなかで行われた大手有名企業の人事役職者の談だそうです。この脱日本型論議、2021年の今、どこかの雑誌にそっくりそのまま載せても、違和感がありません。
精織に制度設計したても運用できない
海老原さんは、欧米流を真似た結果、機能不全な制度を作るという同じ過ちを何度も見てきたそうです。例えば、
- スペシャリストコース
- 成果基準と成果評価
- コンピテンシー人事
- 日本型職務給(職責役割等級)
といったものです。
コンサルティングファームに高いフィーを払い、人事関連誌で特集をやって、しばらくするとぜーんぶ消え去った。
今度もそうなるに決まっている。
七面倒くさいルールや基準など作っても、誰か審判で社内にいて四六時中厳しくジャッジし続けなきゃ、すぐうやむやになるからだ。
とはいうものの、日本企業の根幹である人事体系もかなりガタが来ています。本書では、人事を規模や業種に応じて分類して、それぞれに具体的なアドバイスも書かれています。業界ごとに適した人事体系が分析されているので、中小企業の経営者の方はとくに参照できると思います。
日本のサラリーマンは恵まれている?
日本と欧米を徹底的に比べて、日本のサラリーマンが欧米のサラリーマンに比べていかに金銭的に恵まれているかを分析する段はとくに秀逸です。もちろん、それが可能なのは非正規雇用という周縁の労働者がいることを指摘することも忘れていません。その上で、みんなが階段をのぼれるという幻想でモチベートするキャリア形成の限界も指摘しています。一方で、日本型雇用はエントリーレベルからの入職をしやすくして、若年層の失業を低く抑えているという面もあります。
「ジョブ型」以外にも、さまざまな「人事の組み立て」がわかります。海老原人事学の集大成と言っていいかもしれません。ご自身のキャリアを振り返るにも有益な読書となりましょう。
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