新型コロナは仙台の昼カラとベルギーの施設で同期するのか

仁井田 浩二

(連載28 モンテカルロシミュレーションで検証)

前回の連載では、世界の新型コロナの趨勢について、陽性者が横這いもしくは微増、死亡者が減少し収束、と想定しましたが、その後、新規陽性者が日本を含め世界的に同時多発的に上昇し始めたので、新しい状況で再解析を行いました。

emmanma/写真AC

1.新規ピークの同時多発的発生

図1は、世界7カ国の新規陽性者のこの1年の経緯です。第3波のピークアウトの後の振舞いの違いからA、B、Cの3つのグループに分けています(対数表示で、グループ内がほぼ同じ大きさになるように規格化しています)。グレーの網掛の領域までが最近までの結果で、その右側は今後の予測線です。矢印は各グループの第3波のピーク位置です。

まず、グループA(緑)のベルギーとフランスです。これまでも「横這い状態」と呼んできた国で、第3波のピークアウト後、下降してから横這い(微増)状態が3ヶ月近くも続き、最近、急上昇を始めました。

次にグループB(赤)のドイツとスウェーデンです。第3波のピークアウト後、微増状態でしたが、最近そのまま上昇フェーズに入っています。

最後が、グループC(青)の日本、米国、スペインです。これらの国は、最近まで第3波の下降フェーズにありましたが、急に上昇フェーズに移行しつつあります。

3つのグループは、第3波のピークの時期(それぞれの色の矢印で表示)は、それぞれだいぶ違いますが、グレーの領域に入り、同期したかのように上昇を始めました。この事から、グレーの領域での上昇は、各国同じ要因、恐らく感染力の強い同じ変異株が同時期に入り込んだことが主因ではないかと考えられます。

日本では、今回の上昇の要因を、気の緩みであるとか、リバウンドと言われますが、この理由で、仙台の昼カラとベルギーの施設のクラスターが同期するわけがないので、これは人間の動きの結果ではなく、新型コロナウイルスに特異的な、各国に共通する性質によるものではないかと思われます。

また、重要な事は、新規陽性者は増加していますが、以下に見るように、今のところ世界的に死亡者は減少を続けていて、少なくとも新規陽性者に平行して急上昇するという傾向は認められません。

図1の7カ国の計算結果は、陽性者、死亡者のデータと共に、国ごとに以下に示します。7カ国に加えて、これまで解析しているイスラエル、イギリス、ブラジル、オーストラリアの近況も報告します。

2.ワクチン効果

世界各国でワクチンの接種が進んでいて、その効果や、副反応については、個々の事例について多くの報告がなされていますが、本解析では、あくまでマクロな量、陽性者数と死亡者の数に現れる効果を注視してきました。その中で、人口の半分以上が2回接種を済ましたイスラエルに、わずかながらその兆候がありましたので報告します。

図2の左が、陽性者と死亡者の昨年3月からの変化の対数表示です。右が昨年の12月からの拡大図。朱色の予測線は、前回の連載のもので、ワクチンの効果が出る前に評価したものです。その後、陽性者には微妙な増加が見られ、その後、急激な下降が現在まで続いています。通常、ピークアウト後の下降フェーズの途中では、減少の勢いが緩むことはあっても、加速することはないので、これは、ワクチンの効果が現れたのではないかと推察しています。もし、そうだとすると非常に希望が持てるデータです。ただ、死亡者の減少については、この図からはまだはっきりしません。

以下、そのほかの10カ国について、陽性者と死亡者の現況とシミュレーションの結果を示します。

3.グループA、ベルギー、フランス

両国とも3ヶ月近い横這い状態から陽性者の上昇が始まりました。死亡者はまだ減少しています。以下の国々もそうですが、今後のピークアウトの予測は、ひとつの目安で、根拠のあるものではありません。(以下の図では、左が線形表示、右が対数表示で、データとシミュレーションの結果、陽性者(赤)、死亡者(青)、実効感染者(紫)、各波の成分がそれぞれ示してあります。)

4.グループB、ドイツ、スウェーデン

両国とも、第3波のピークアウト後、下げ止まり、そして微増状態でしたが、最近、Uターンのように、そのまま上昇フェーズに入っています。死亡者はまだ減少しています。

5.グループC、日本、米国、スペイン

これら3国は、第3波のピークアウトの後の下降から上昇に転じてまだ間もないので、本当にピークを形成するまで上昇するかどうか分かりませんが、グループBを先行事例として予測線を計算しています。日本、米国の死亡者は下降していく予測です。スペインはデータからの死亡者の動向が、まだはっきりしない状況なので、予測も陽性者に単に連動させています。

6.変異株収束のイギリス

イギリスは、変異株の強烈なピークが1月上旬にピークアウトし、その後順調に下降しました。最近は下降の勢いが少し衰え、グループCのように再上昇の兆しがあるのかと注視していますが、今のところ横這いになりつつあるという状況です。死亡者は陽性者の下降に比べると、より強力に下がっていて、これは、上の7カ国と同様です。

7.未だ上昇中のブラジル

ブラジルは、陽性者、死亡者ともに上昇中です。予測線ではピークアウトにしていますが、データには、はっきりした兆候はまだ見えません。変異株とも言われていますし、ワクチン接種も相当数行われていると言われていますが、まだその兆候は見えません。

8.孤立国、オーストラリア

ほとんど鎖国とロックダウン状態を続けているオーストラリアは、前回から変化ありません。この国のワクチン接種とその後の動向は大変興味あるところです。