変異株、ワクチン、そして新型コロナパニックの着地点:連載㉗モンテカルロシミュレーションで検証

仁井田 浩二

日本の新型コロナは、1月に第3波がピークアウトしてから急激に減少し、現在は横這い、もしくは微増の状態です。陽性者は増加し死亡者は減少しています。この状態は世界的にも見られて、コロナの新しいフェーズ、新型コロナパニックの着地点が見えてきたのではないかと期待させます。

1.日本の近況

図1(右)のポイントは、陽性者が最近横這い状態ですが、死亡者が減少している点です。(以下の図では、左が線形表示、右が対数表示で、データとシミュレーションの結果、陽性者(赤)、死亡者(青)、実効感染者(紫)、各波の成分がそれぞれ示してあります。)

その原因は何でしょうか。図1には、60歳以上の陽性者(緑色、厚労省が毎週発表しているデータ)と計算値(黄色)も同時に表示してあります。60歳以上の陽性者は、最近までは、ほぼ実効感染者数と一致しています。

実効感染者というのは、実際の死亡者から第1波の死亡率で逆算した実効的な感染者数です。日本の場合、死亡者の約97%が60歳以上ですから、両者が一致するのはある意味当然です。だた、その前提は60歳以上の死亡率がこれまで変化してこなかったということです。実効感染者の実体は60歳以上の感染者です。

ところが、3月に入って、それがずれ始めています。60歳以上の陽性者が横這い、もしくは増加しているのに、死亡者は減少しています。陽性者の下げ止まりの一因は、この重篤化しない60歳以上の陽性者の増加です。ウイルスの弱毒化と同等なことが起こってきています。

janiecbros/iStock

2.実効再生産数Rtが引き起こした問題

世界の情勢を俯瞰する前に、よく使われる「実効再生産数」(Rtと書きます)についてコメントします。Rtの定義は、ひとりの感染者が何人の人に感染させるかの人数です。図2は、陽性者のデータと計算結果から簡易式(東洋経済方式)で求めたRtです。上側がRt(左右とも同じ)、下側が陽性者(左が線形、右が対数表示)の時間変化です。

左の図で、Rtと陽性者の変化を比較すると、第1波、第2波、第3波の大小の関係が逆に見えます。Rtは陽性者の変化の「倍率」に比例します。右図の対数表示で見ると、陽性者の変化は、第1波が一番急で、第2波、第3波と上昇の傾きが緩やかです。Rtの大きさはこれを反映しています。しかし、Rtはあくまで「倍率」の指標なので、変化「速度」(微分値)とも違います。例えば指数関数で上昇もしくは減少する場合、「速度」は変化しますが、Rtは一定になります。

Rtは、1より大きければ感染は拡大、1より小さければ収束というものです。1との大小が基本的な問題になる場合、例えば人口問題、原子炉の臨界問題等では、重要な指標になりますが、あくまで1との大小が重要で、それ自体の値の増減を、他の現象の変化と関連付け、もしくは相関をとるのは適切ではないことが多い特殊な指標で、注意して使うべきです。

3.上昇国、ブラジル

本シミュレーションで解析している11カ国の内、陽性者と死亡者がピークを形成するように共に上昇している国が唯一あります。ブラジルです。多いときで一日7万人の新規陽性者、2千人の死亡者が出ています。

前の波が下降フェーズに入って安心していたところ、急上昇し、変異株の影響とも、2月のカーニバルの影響とも言われています。人口2億人のうち、1000万人にワクチン接種済(政府公表)となっていますが、そのスケールの大きさと統計のアバウトさは、判断の基準とする際、充分考慮されるべきです。同じ大国では、米国は最後に示しますが、下降フェーズです。

4.微増国、ドイツ、スウェーデン

ドイツ、スウェーデンとも大きな波がピークアウトし、順調に下降していたのが、最近、上昇に転じています。変異株の割合が高いと言われています。特徴は、陽性者は上昇していますが、死亡者は減少していることです。日本の先行事例になると思います。

5.横這い国、フランス、ベルギー

フランスもベルギーも横這い状態になって、3ヶ月経過しました。ほぼ平衡状態のようで、これまでに見られなかった様相です。特徴は、やはり、陽性者は横這いでも、死亡者が徐々に減少してきていることです。この状態は、上のドイツ、スウェーデン、そして、日本の先行事例になると思います。

6.下降国、イギリス、スペイン、イスラエル、米国

これらの国は、大きな波(変異株が関連している)がピークアウトし、順調に下降している状態です。陽性者も死亡者も共に下降しています。その中でも、イギリスとイスラエルは、シミュレーションでデータを再現しようとすると、死亡者の下降が陽性者の下降より急になっていることが分ります。今後、これらの国は、陽性者は下げ止まり、フランスやベルギーのような横ばいの状態になって、更に死亡者が減少してくると思われます。

7.孤立国、オーストラリア

ほとんど鎖国とロックダウン状態を続けているオーストラリアです。昨年の9月に第2波が収束して以来、数十人のクラスタが2度ほど発生しただけで、死亡者はほぼゼロです。この状態が、ワクチンの接種で開国に至るのかどうか、そのワクチンが唯一の頼みで厳重なロックダウンを辛抱しているときに、ワクチンの副反応でヨーロッパが接種を中断すると、どう手を打つのか、興味あるところです。

8.まとめ

私たちがなぜ現在このように、陽性者の変動に振り回されて一喜一憂するかというと、これまで陽性者と死亡者が連動していたからです。しかし、今、様相は変わりました。日本ではピークアウト後、3月から、(1) 陽性者は下げ止まり、(2) 横這い状態になり、(3) 一方で死亡者は減少する傾向が顕著です。つまり、ほぼ平行に推移してきた陽性者と死亡者の関係がなくなり、陽性者の変動とは独立に死亡者が減少してきています。

原因として、変異株の影響、ワクチンの影響、いろいろ考えられますが、今起きつつあることは、実質的には新型コロナウイルスの弱毒化と似た状態です。今後は、派手な陽性者の変動に目を奪われることなく、実体を示す死亡者の変動に重点を置いた対策にシフトすべきです。