先週の金曜日に「東芝の喜怒哀楽」という内容のブログを振ったばかりのところに日本時間の午前2時発信記事で降ってわいたのが日経のスクープ、「東芝に買収提案、英投資ファンドなど 2兆円超で非公開化」で朝刊の一面にもなっています。
それを追っかけてブルームバーグが朝5時過ぎに第一報を報じ、NYのOTC市場で東芝株は午前5時に17.5㌦台から一気に22㌦まで暴騰しています。率にして25%となっています。このニュース、現時点で極めて限定的な情報しかありません。今日の東芝は蜂の巣を突っついたような大騒ぎになることは確実でしょう。
先週の金曜日の「東芝の喜怒哀楽」の内容と現在知りえる情報からこの行方をなるべく冷静に分析してみたいと思います。
確実に言えることは海外ファンド勢は車谷体制が絶対に嫌だったということになります。ですが私はまさか東芝本体の買収をしてまで追い落とすわけではなく、キオクシア(旧東芝メモリ)のIPOで半導体価格の上昇を踏まえたうえで十分なプレミアムがあれば多くのファンドは引くかと思っていました。
東芝はフラッシュメモリの業界としての地位、初期のノートパソコンで圧倒的評価を得たこと、それ以外にも過去、様々な電機業界の勲章を取ってきた極めて優秀で名門企業だけれどガバナンスだけはこの10数年、厳しい状況でした。車谷氏の登場はある意味、典型的な国内実務を重視し、金融面を中心とした企業体裁の復活を目論む人選だった可能性はあります。
それは車谷氏が指名された時点で東証第二部降格がほぼ決まっていました。国内金融関係、取引先との傷んだ関係の修復という意味で剛腕でかつ、銀行出身者で顔も広いという立場ならば東証一部昇格復活の道筋はあったわけです。その点からも経産省からのお墨付き人事で根回しが可能だったともいえるのでしょう。
では海外ファンドは何が気に入らないのでしょうか?車谷氏はアクティビスト対策として選任されたはずなのにアクティビストを完全に敵に回してしまった、これに尽きると思います。宝であるキオクシアの件を含め、事あるごとに様々な意見が噴出し、その矛先が車谷氏に向かっている、そんな状況にあります。
そもそも6000億円の増資の見返りに海外アクティビストを迎え入れたわけですが、毒入り饅頭だということはDay1からわかっていたわけでここにきて毒が廻ってきたといってよいでしょう。
さて、今回買収に名乗りを上げたのが英国系のCVCキャピタルパートナーズらとありますのでいくつかのファンドが共同で手を上げるのだと思いますが、最終的に多くのファンドがそれに相乗りすると思います。TOBをすれば成功する確率は高いでしょう。
彼らが非上場化した後にまず行うのがキオクシアの売却のはずです。半導体市況が活発化していることで東芝が現在見込む金額より2割以上は上振れするはずでここに果実の一つを見て取っています。二つ目は東芝の実力はもっとあるだろうという見方です。ライバルの日立が売り上げ8.3兆円(21年3月期予想)に対して東芝は3.1兆円、営業利益で3700億円に対して1100億円と明らかに差が出ているのは逆に言えば成長余力が残されているともいえるのでしょう。
ファンドとして今回、2兆円規模での買収で数年後に再上場させて倍ぐらいの規模にすれば数年間で2兆円規模の利益を手にすることができます。ハゲタカと言われるゆえんです。そして悲しいかな東芝の約2/3は外国人株主であるのです。
仮に東芝のTOBが成立するとします。何が言えるのでしょうか?
日本企業は海外勢に好きなように吸い取られるということです。私がこのブログを通じて何度も言ってきた事態が起きつつあるということです。たとえば不動産の話を明日しますが、企業が本社ビルなどを売却する、それを買うのは海外勢という流れです。
日本企業は極めて優秀でまじめだと思いますが、こじんまりと収まってしまっています。米中の企業レベルと比べるとジャンボジェットとプロペラ機ぐらいの差がついてしまっています。優秀で着実な利益を出す日本企業はグルメにとってはたまらないごちそうだという点を重々理解すべき時代だと思います。日本企業で最大のトヨタでも27兆円ほど。アップル社の10分の1ほどなのです。
2兆円クラスの東芝ぐらいはあっさり食われてしまう時代となれば日本人のサラリーマンも目を覚ます時が来るのではないでしょうか、海外では弱肉強食の時代がずっと続いているということを。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年4月7日の記事より転載させていただきました。