3月16日に開催された外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)では中国を名指しで批判、両国が対中抑止で緊密に協力するとのメッセージを世界に放ちました。
声明では、「中国」との文言が3回登場しています。
(1)中国による、既存の国際秩序と合致しない行動は、日米同盟及び国際社会に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起しているとの認識で一致した。また、ルールに基づく国際体制を損なう、地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対することを確認した。
(2)四閣僚は、東シナ海及び南シナ海を含め、現状変更を試みるいかなる一方的な行動にも反対するとともに、中国による海警法に関する深刻な懸念を表明した。また、日本側から、日本の領土をあらゆる手段で守る決意を表明した。四閣僚は、尖閣諸島に対する日米安保条約第5条の適用を再確認するとともに、同諸島に対する日本の施政を損なおうとする一方的な行動に引き続き反対することを確認した。
(3)四閣僚は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明した。
前回の「東シナ海及び南シナ海における現状を変更しようとする一方的かつ威圧的な試みに関し,深刻な懸念及び強い反対の意を表明」から、たった2年しか経過していないというのに、隔世の感がありますね。1月に成立した海警法、3月の全人代で増額された国防費など、中国による覇権奪取の動きが加速するだけに、日米も対応が迫られたことは想像に難くありません。
2プラス2はさておき、ブリンケン国務長官は訪日中の記者会見で東京五輪につき「日本政府の決断を支持する」とコメントしていました。
東京五輪が話題に上がったことでしょうが、もう一つの五輪についてどんな会話があったのか、気になりますよね?
画像:桜餅を召し上がるブリンケン国務長官、胸元にはブルーリボンを挿し北朝鮮拉致家族と寄り添う。
そう、東京五輪から約6ヵ月後の22年2月4日に開幕する北京冬期五輪です。その答えが遂に明らかになりました。
国務省が北京五輪のボイコットの輪に加わる可能性を点灯させたのです。ネッド・プライス報道官は4月6日、ボイコットについてパートナー国と「協議したい課題である」とコメントしました。後にメールで「協調的なアプローチに関する協議」であって、実際にボイコットについて協議しているわけではないと説明しています。
ここで、米国内でのボイコット運動をを振り返ってみましょう。
米国では共和党が人権問題をめぐりボイコット運動を展開、中道派のロムニー上院議員(ユタ州)も、3月15日付けのニューヨーク・タイムズ紙の論説で「経済的且つ外交的なボイコット」を呼び掛けました(敢えてリベラル寄りのNYT紙に寄稿したのがミソですなぁ)。ロムニー議員の言う「経済的且つ外交的なボイコット」とは、選手団やコーチ、その家族の北京五輪の参加を認める一方で、観客やメディアは訪中を控えるというもの。要は経済効果を与えない作戦で、五輪に参加する米企業についても米国内に資金を還流させるべきと主張します。その他、バイデン大統領に中国の反体制派を始め宗教指導者、少数民族などを米国代表として招くよう進言、開催国である中国に泥を塗る作戦を訴えました。
経済効果に的を絞った「経済的且つ外交的なボイコット」は、もちろんカーター政権での反省が込められています。当時ボイコットした結果、五輪が開催されたモスクワの空にソ連の国旗が数多く舞い上がったものです。
ロムニー議員のアクションは、2008年の北京五輪開催前を思い出させます。人権問題が取り沙汰され、クリントン前大統領(当時)のヒラリー夫人がブッシュ大統領(同)にボイコットを呼び掛けていましたよね。しかし結局、米国がボイコットしなかった事実は歴史が示す通りです。
話を現代に戻して、北京冬期五輪開催については、リベラル派が多い民主党より共和党議員の間で熱く議論されています。
ロムニー議員の声を上げる以前に、2024年の共和党大統領有力候補と目されるニッキー・ヘイリー元国連大使がツイッターを通じ2月28日に北京五輪ボイコット・キャンペーンを開始。その他、リック・スコット上院議員(フロリダ州)は2月2日に公表したバイデン大統領宛ての書簡で五輪開催地の変更を要請し、同じくフロリダ州選出で対中強硬派の最前線に立つマルコ・ルビオ議員を含め4名を連ねていました。さらに、3月6日には、国務長官として任期切れ前に中国によるウイグル弾圧をめぐりジェノサイド認定したマイク・ポンペオ氏も、北京五輪ボイコットに支持表明しています。
また下院では、2月にジョン・カートコ議員(NY州)を始め3人の下院議員が①北京から冬季五輪の開催地の変更、②開催地を変更が認められない場合、米国が五輪開催ボイコットを主導すべきとアピールしています。ちなみに、ロムニー上院議員はトランプ前大統領の弾劾を2回支持し1回目は有罪票を投じ、カートコ下院議員も2回目の弾劾を支持しておりました。
チャート:北京五輪ボイコットあるいは開催地変更を求める主な共和党議員
しかし、共和党内が北京五輪ボイコットで一枚岩かというと、そうでもありません。実はルビオ議員、ボイコットをめぐり「厳しい選択」と述べるにとどめ、旗色を鮮明にしていません。また、トランプ支持者であり保守派で知られるテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)に至っては「(1980年のモスクワ五輪ボイコットは)大失敗だった・・・トレーニングを重ねてきた米選手団を罰するべきではない」と発言しており、米選手団を派遣しない完全なボイコットに否定的なんですよ。
共和党内で一枚岩ではない状況で、民主党はどうかといいますと米上院外交委員会に属するベン・カーディン氏が世界が足並みをそろえ中国の行動に行動すべきと発言する程度で、具体案の言及は避けています。
バイデン政権と言えば、習近平主席の世界経済フォーラム講演を受けサキ報道官が1月25日に「(対中姿勢に)変更はない」と発言していましたが、北京五輪については2月25日に「最終判断に至っていない」と見解を寄せるにとどめていました。
米国が北京五輪開催をボイコットするならば日本も巻き込まれそうですが、気になるのが4月9日から16日に変更された日米首脳会談の日程です。海外の首脳として米国でバイデン大統領と初の会談に臨む菅首相、当初は気候変動対策でのパートナーシップ締結のための時間稼ぎかと思われましたが、北京五輪ボイコットも机上に上がっていたのでしょうか。
米国では、対中好感度が過去最低を更新し、約180もの民間団体がボイコットを掲げる状況。そこへきて、バイデン政権が欧州連合(EU)や英加と共同でウイグル問題の制裁を科し、豪NZが支持を表明するなど確実に対中包囲網が築かれつつあります。各国首脳との外交戦略を急速に展開するなかで、2008年と同じ轍を踏むというシナリオはメインでなくなるのか。そのカギは、日米首脳会談の行方が握っているのかもしれません。
その一方で、2月に国防総省のカービー報道官が「尖閣諸島の主権につき、日本の立場を支持する」と発言した後、従来の立場に基づき撤回したケースがありました。今回のプライス国務省報道官の発言はメールでの訂正もあり、北京五輪ボイコットをめぐっては「今回は違う」のか否か、まだ議論の余地がありそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年4月7日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。