今こそ職業訓練のeラーニング化推進を図るべき --- 松橋 倫久

職業訓練をeラーニング化することのメリット

昨今、コロナ禍のためZOOMを利用した講習や研修も増えていると聞きます。私はハローワークでやっている職業訓練(ハロートレーニング)も、可能な学科はeラーニングにするべきではないかと思っています。

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その理由としては、三つあります。一つは、蜜を避けられるためです。eラーニングであれば、各訓練生は自宅からパソコンやスマホを利用して受講することができるため、一つの教室に集まる必要がなくなります。

二つ目は、移動にかかる無駄な時間を節約することができるためです。職業訓練は、受託者にもよりますが、だいたい9時から16時頃までの訓練時間であることが多いです。通勤ラッシュとは少しズレるかもしれませんが、それでもやはり混雑している時間帯だと思います。通学のストレスがなくなることは、大きなメリットです。

三つ目は、eラーニングであれば教室で講座を開講するよりも、多くの人数が受講できます。コロナ禍で失業してしまった方々にたいして、十分なケアができると思います。

また、障がい者が訓練を受けるハードルも下がります。たとえば身体障がい者の方で、教室には通えないという人でも、eラーニングであれば自宅で、ベットの上でも受講できます。すでに、東京都をはじめとして、女性や障がい者等向けにeラーニングのコースを提供している自治体もあります。通常の職業訓練をeラーニング化できれば、障がい者の方も障がい者向けのコースだけではなく、様々なコースの中からマッチする訓練を受講することができるようになります。

東京都TOKYOはたらくネット

東京しごと財団

eラーニング化することのデメリットは少ない

逆にeラーニングにすることのデメリットは何でしょうか。まず、パソコンやスマホのない人が、訓練を受けられない可能性があります。ですが、これはハローワークでタブレットを貸し出すなどすれば、解決できます。講義の中でわからないところが、すぐに質問できない可能性もあります。これについては、ライブ配信で双方向にやりとりできるようなタイプのeラーニングであれば、対応することが可能であると思います。

職業訓練がeラーニングになったとしても、受講生にとってのデメリットは少ないと考えます。職業訓練のeラーニング化は、どうして進まないのでしょうか。

委託先の能力によるeラーニング化の可否

職業訓練は大きく分けて二つに分類できます。一つは公の機関である、職業訓練校において指導員から学ぶパターンです。もう一つは、そういった職業訓練校や独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構から委託された民間の専門学校において学ぶパターンです。

職業訓練校において指導員から学ぶパターンの場合、主として実習をメインにしている学科が多いことから、eラーニング化は難しいと思います。学科の一部については、eラーニング化が可能かもしれませんが、どうせeラーニング化を目指すならすべての課程がeラーニングで学べなければ、メリットが十分に享受できません。

委託された民間の専門学校で学ぶパターンの場合、eラーニングの講義に対応できる民間業者があるかどうかが鍵になります。多くの自治体で、いまだ障がい者等の職業訓練でさえeラーニング化できていないのは、その地域にeラーニングでの講義を実施できるような民間の専門学校が存在していない、というのが一番大きな理由と考えられます。eラーニングを実施する場合、こうした民間の専門学校が、eラーニング教材を開発できる環境や人材を整えるために、政府や自治体からの助成が必要になると思います。

結局、その自治体のエリア内に、受託できる業者がなければ、委託のしようがないのです。職業訓練のeラーニング化は、受講者の利益を考慮すると実施するべきと思いますが、実施するためには業者を育てる必要があります。

東京のeラーニング専門業者へ委託する方法もないではないと思います。その方がスピーディーに対応できるとは思うのですが、委託訓練は地域経済を振興するという意味もありますので、できるだけ地域の民間の専門学校に委託できることが、望ましいと考えています。このコロナ禍だからこそ、民間の専門学校に助成を出して、職業訓練のeラーニング化を推進していくべきだと思います。

松橋 倫久
1978年青森県生まれ、元青森県庁職員。東北大学を経て2002年青森県庁に奉職。在職中弘前大学大学院修了。統合失調症を患い2016年同庁退職。現在は求職活動の傍ら、自治体行政のあるべき姿を研究中。


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