台湾独立は時期尚早、中国に台湾解放の口実を与えるな

台湾・中国

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台湾は国なのか?

台湾は国なのか?筆者が所属する大学の教授曰く、実質的にはそうである。台湾には台湾と呼ばれる島と、そこに住む住民を統治している政府が存在する。傍から見たら台湾は国を構成する重要要素である、領土・国民・政府を保持しているように見える。

しかし、公式的には台湾を国として認識している国は数えるほどである。日本を含め多くの先進国は台湾を国とは認めておらず、原則として台湾は中国の一部であるという、「ひとつの中国」という見方を踏襲している。

だが、公式に国として台湾が認められなくても、事実上の国として扱われているように見える。国交が断絶してからも、台湾はアメリカと依然として軍事同盟を結んでおり、アメリカは武器売却などを通じて台湾へのコミットメントを示している。台湾は軍事的にはアメリカのアジアでの同盟国と比べて遜色ない扱いを受けている。

また、台湾は政治的には孤立しているようには見えるが、経済的にはグローバルなサプライチェーンの中に入り込んでいる。台湾はスマホから社会インフラまでカバーする半導体の生産能力が世界トップであり、世界最大の電子機器メーカのひとつであるフォックスコンの本社がある。台湾は世界経済にとっては欠かせない地域となっていることから、多くの国々と経済的な結びつきがあり、それもあってか自国民は食べさせていることができている。

もちろん、台湾が国として認められないことで弊害はある。もし、台湾が主権国家のクラブである国連、またはそれに連なる機関のメンバーであり、その中で発言する権利があれば、コロナはパンデミック化しなかったのかもしれない。だが、非公式的には日本を含めた多くの国々が関係を持っていて、実質的には国として扱われていることを考えると、筆者は台湾が国として認識されるべきかという議論はプライドの問題だと考える。

仮に台湾が独立すれば

実際、多くの台湾人が台湾人としてのアイデンティティを確立しており、そのことも関係して独立志向を強めているとする指摘もある。そして、このままの傾向が続いていけば、台湾人が実質的な利益より、最終的には国家としての承認といったような自らのプライドを満たすための要求をしてくることが十分に考えられる。また、このまま反中国の動きが高まれば、中国に対抗する意味合いで台湾の国家承認を選択肢のひとつとして検討する国が出てくるかもしれない。

しかしながら、筆者は国なのか、そうではないのかといった台湾の曖昧な立場をはっきりさせることに懸念を覚える。また、それが過度なエスカレーションにつながり、軍事的な衝突を引き起こすことを危惧する。

現在、中国は台湾を武力解放する意思と能力を持っている。2019年でのシンガポールでの安全保障会議では中国防相が外国の台湾への干渉に際して武力をいとわないと発言している。また、筆者が以前述べたように中国は東アジアではアメリカを凌ぐほど軍事的な影響力を保有している。そのため、その気になれば台湾への侵攻は時間の問題である。しかし、北京オリンピックや党大会といった重要な政治日程を抱えている中国としてはここ数年は台湾侵攻は様子見であり、元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のマクマスター氏によると2022年以降に台湾の現状変更は現実味を帯びるという見方がある。

だが、台湾または国際社会が台湾独立へ動けば話は変わる。多民族国家である中国が台湾の独立を許せば、ドミノ倒しのように中国国内の民族は続々と民族自決を求め、中国は内部崩壊をしかねない。そのような結末を中国が許すわけがないし、それを過度に恐れている。香港やウイグルでの締め付けも中国が内在する民族問題が噴出することを恐れている証拠だ。そのため、いかに非合理であっても時期を選ばずに中国は武力を用いてでも台湾の独立を阻むであろう。そして、その事態が発生すれば中国が拒否権を持つ国連は機能せず、台湾防衛に向かう米軍は撃退される可能性が高い。現時点では本気で台湾併合を狙った中国を前に国際社会は無力である。

時期は今ではない

以上の懸念から、筆者は現段階での台湾独立を後押しすることは極めて危険だと考える。無条件での中国の介入を誘発し、世界大戦を引き起こしかねない。仮に戦争に発展したとしても米軍を含めたアメリカの同盟国はその準備ができていない。

もし、何十年、何百年後かに中国が台湾の解放の野望を捨てれば、はたまた中国の武力侵攻の意図、能力を抑え込むだけの力をアメリカを基軸とした国際社会が備えれば、台湾の独立は実現するのかもしれない。しかし、いずれも近未来的にはあり得ない今、台湾には名より実を取ってもらう必要がある。