「まちづくり幻想」から知る「地方衰退、東京一極集中」の理由

「まちづくり幻想」という本を読みました。コロナ禍によって、東京一極集中が是正され、地方の時代がやってくるといわれています。本書は、そんな「東京一極集中が終わった」という報道をフェイクニュースと断じています。

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東京23区の人口流出が続いていると報道されていますが、東京都全体では未だに人口流入が続いています。また、東京から転出した人たちの多くは、東京圏(千葉、埼玉、神奈川)に移動しています。地方に人口が流れ始めた訳では無いのです。

なぜ、これだけ地方創生が叫ばれ、様々な施策に大量の資金が投入されているのに、世の中は東京一極集中という逆方向に進んでいくのでしょうか?

本書には、実際にまちづくりに関わった著者ならではのリアルな問題点が指摘されています。

地方に欠けているのは、まずマーケティング力です。地方に住んている生産者は、自分で生産物を購入した経験がほとんどありません。購買力のある人たちが、どんな商品やサービスを必要とし、喜んでお金を払うかを理解していないのです。

また、プライシング(価格設定)にも問題があります。一般的な考え方として「安くたくさん提供することが良いこと」という発想が強く、収益よりも認知や売上にプライオリティを置いてしまう。このような収益意識の欠如が、赤字体質のまちづくりにつながり、いつまで経っても自立できない補助金頼みの地域になってしまうのです。

塩水うにを1万円で販売しようとしたら、そんな金額で売れるはずがないと反対されたり、付加価値の高い高価格の商品・サービスを提供しようとすると「ボッタクリだ」とか「3日で潰れる」と地元で叩かれたといった事例が紹介されています。

「価値のあるものを高く売って収益をあげる」という企業では当たり前のことが、地方に行くと「悪いこと」になってしまうようです。

そのような状態を生み出してしまう背景には、人材の劣化があります。

過去の成功事例に囚われて、新たな学びをしないシニア層が地域のリーダーを務めているエリアには、新しい発想による地方再生が生まれにくくなります。若いから良くて、シニアだからダメというつもりはありませんが、やはり世の中の変化を察知して、過去のしがらみに囚われないのは若い世代です。

さらに、地方の横並び体質も問題になることがあります。例えば、地元で成功した人は、成功事例としてその地域で賞賛されるのではなく、「調子に乗って」とか「悪いことしているのでは」とバッシングされ、勉強会にさえ呼ばれないこともあるそうです。成功者がいると、自分たちの失敗を環境のせいにできなくなるからです。

日本の地方が全てこのような状態になっている訳ではなく、意欲的な試みを続けている地域も存在しています。しかし、今なお変わることができない地方が圧倒的なのです。

メディアがどのように報道しようとも、間違えた地方活性化策を取っている限り、これからも地方は更に衰退し、東京一極集中が続く。これが本書を読んで、私が確信したことです。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2021年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。