文科省「生徒と私的SNSやり取り禁止」指針の注意点

和田 慎市

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9日文科省が「教員と生徒との私的SNSやり取りの禁止」と「密室での指導の回避」についての対応指針を、全国の教育委員会に通知しました。

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教員のわいせつ行為は絶対にあってはならないことであり、当該行為者が懲戒免職になることへの異論はありません。しかし、その対処策である今回の指針に限らず、これまで文科省が学校現場の実態をしっかり把握したうえで施策を行ってきたのかといえば、大いに疑問があります。

単刀直入に言えば、学校・児童生徒は、校種(小・中・高・特支など)や地域性、児童生徒集団の特性などによってまさに千差万別であり、全国一律に規制・禁止するような施策は、多種多様な子供たちが渦巻く学校の実情にそぐわないということです。

例えば中学生と高校生では、学校のスマホに関する規則や成長過程の違いなどから、教師が生徒と連絡を取る方法も異なるのは当たり前です。また、同じ高校の中でも、定時制の生徒は連絡手段としてSNSが使えないと不便極まりないのです(筆者も実際に経験)。

その理由は、「家庭状況等で保護者と連絡を取るのが難しい」「そもそも本人がほとんど家にいない」など、なかなか所在がつかめない状況にあるため、教師が直接生徒に連絡しなければらちがあかないからです。

そうなった場合、公的連絡であっても教師が発信すれば、当然生徒から返信できることになり、知らず知らずのうちに教員が私的な会話に巻き込まれる危険は増していくことになります。

そんなことも含め、学校現場の視点から「生徒との私的なSNSやり取りの禁止」について、問題点・疑問点を列記します。

(1) 私的ではなく公的ならばSNSのやり取りはしてもよいのか?

  • 問題点1…私的と公的の区別(基準)を明確に決められるのか? また誰がそれをチェックするのか?
  • 問題点2…公的限定であろうとSNSが使用できれば、結局私的なやり取りを排除できず、もとの木阿弥にならないか?

(2) 生徒とのSNSやり取りを原則禁止した場合、連絡手段はどうするのか?

ア.保護者に連絡して生徒に伝えてもらう

  • 問題点1…保護者となかなか連絡が取れない時どうするのか?
  • 問題点2…勤務時間外に保護者から頻繁に連絡が来たりはしないか?
  • 問題点3…教員と保護者間で私的SNSやり取りの恐れはないのか?

問題点2について、すでに保護者とのSNSの問題が指摘されています。

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また、問題点3についても、すでに教員と保護者間のSNSやり取りを原則禁止している教育委員会があります。

教員のスマホ、職員室で管理 「SNS発信に問題」:朝日新聞デジタル
 浜松市教育委員会は18日、教員の不祥事が相次いでいる問題を受け臨時の校長会議と研修会を開き、綱紀粛正と再発防止を呼びかけた。研修会では、「教職員のSNS利用に関するガイドライン」を提示。「児童生徒・…

イ.学校の固定電話からかけるか、時間外連絡はせず翌日登校時に伝える

  • 問題点1…教員が学校に遅くまで残る頻度が高まらないか?
  • 問題点2…生徒や保護者からどうしても直接担任等と連絡を取りたい場合はどうしたらよいか?
  • 問題点3…時間外連絡をなくした場合、当日でなければ支障がでる連絡をどう受けたらよいか?

このように文科省が打ち出した指針は、時間経過と共に基準やチェックが甘くなり、元の木阿弥になりはしないか心配ですが、だからと言って生徒とのSNS全面禁止を行っても、上記(2)ア・イのように問題点が山積みであり、保護者とのやり取りすら原則禁止する教育委員会がある中、全面禁止は難しいでしょう。

八方ふさがりともいえる状況ですが、ここで筆者の改善案を示したいと思います。

A. 教員の業務用個人携帯(スマホ)を、少なくとも担任分と部活正顧問分は用意して貸し出し、いつでも情報公開や管理職の閲覧・チェックができるように設定しておく。

※ただし業務用個人携帯が普及しないうちは、学校所有の携帯を必要時に教員が届け、持ち出し使用する。当然使用履歴は管理職がチェック可能な仕組みにしておく。

B . 校種(小・中・高・特支など)や地域性、生徒集団の特性を考慮し、全国一律ではなく自治体(教育委員会)ごと(高校の場合学校単位でもよい)に、SNSの使用規定を柔軟に定め運用できるようにする。例えば定時制高校なら公的連絡は生徒に直接連絡できるが、全日制高校や中学校は公的連絡もすべて原則保護者へ送信すること、など。

C. 不測の事態用の「学校ホットライン(電話)」を1本設置、24時間音声受付し、管理職に自動転送されるようにする。

最終的には、A+Cを目指すのが良いのではないかと考えますが、特にAへの移行段階においては、文科省にはぜひBの校種(小・中・高・特支など)や地域性、生徒集団の特性を十分に考慮し、学校現場に即した柔軟な対応をしていただきたいと思います。