日米首脳会談に向けて思うこと

菅総理が15日にワシントンに向かい、16日にバイデン大統領と会談する予定です。本来であればもう少し盛り上がりを見せてもよい気がしますが、あまり話題に上がってきません。国内を見ればコロナ対策でてんやわんや、それ以外の政策ごとはどうしても優先度が下がってしまっていることもあるのでしょう。

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一方、国外を見れば中国を取り巻く香港、台湾や新疆ウィグル問題、韓国での二つの市長選挙における与党の惨敗、ミャンマーでのエスカレートする国軍と虐殺など様々なことが日本の周りで起きています。しかし、それらのことに日本政府が積極的に発信する声も聞こえないし、日本主導で何か起きているという感じもしません。

菅総理は外交全般はあまり得手ではないと申し上げました。外交とは首相や外務大臣になって相手国のトップと会って会談すれば外交になるものではありません。まずは当人が国際感覚とそのセンスを十分に持ち合わせていること、リーダーとしての主張が理詰めで行えること、そして相手国の言い分をきちんと聞きながらも落としどころを見つけ結果を出すことです。ここまでやるのは一筋縄ではできません。特に国際感覚は一朝一夕では身につくものではなく、この辺りが日本の弱いところと指摘されてきました。

それを補うのが外交官であります。戦前には良し悪しは別として骨のある外交官を多く輩出し、名前を知っている人も多いでしょう。吉田茂、広田弘毅あたりは幣原喜重郎の部下だったし、白鳥敏夫、松岡洋右もいました。杉原千畝は外交官ですが、いわゆる今でいうキャリア組ではなく、その評価は一般と内部では温度差があります。

さて、菅氏のバイデン氏との会談ですが、着目点は日米関係の確認が主眼になると思います。既にこの会談の答えは見えていて菅氏が「大変成果のあった会談だった」と述べるはずです。なぜ私が今からそれが見えるのかと言えばそもそも今回の会談のハードルは高めに設定していないことがあります。アメリカからすれば今、日本に小難しいことを言っても無理だろう、なので日本がアメリカに忠誠をつくし、同盟国として共通の課題に歩調を合わせて協力体制を維持できるか、その確認に留まるはずです。

日本が抱える難題とはコロナやオリンピックというより政権の安定感と日本の腰が据わっていないことへの懸念だと思います。我々は韓国を二股外交と言いますが、日本も中国に対しては相当遠慮をしています。特に経済関係においては否が応でも中国と一定水準の関係を維持しなければ日本経済にとって極めて厳しい結果をもたらすからです。

例えばファーストリテイリングの柳井氏が新疆ウイグル地区での人権、強制労働問題について記者会見で「政治とビジネスは別物。ノーコメント」を貫きましたが、これを受けてか、フランスの人権団体が訴訟を行うとしています。理由は「取引企業が弾圧に関わっていないと確認するため十分努力したことを示していない」(産経)とあります。これは柳井氏に踏み絵を迫っているともいえ、自分だけが良いということが地球儀ベースで許されなくなってきた感があるのです。

菅総理は日米同盟は堅固であり、これからも同調していくと発言すると思いますが、中国は既に日本側に様々な手を使ってプレッシャーを出してきています。「お前、バイデンの言うなりになるのか。日本は中国なしでやっていけると思っているのか」と。

私が長年近代外交史に深い興味を持ち続けてきた中で思う明白な認識は、戦前までの日本は真の意味で自立していた点です。私が上記に戦前には骨のある外交官が多かったと述べたのは独立国家日本としてあるべき姿を激論しながらも二本の足で立ち、アジアの盟主として必死の努力を重ねてきたことです。

ところが戦後、アメリカの傘の下に入った途端、良い部分ももちろん多かったのですが、失った部分も多かったと思います。レバタラはいけないですが、日本が独立独歩を歩めたならば80年代に噂のあった世界の覇権のバトンが英国→アメリカから日本に渡った可能性もなかったとは言い切れないでしょう。北方領土問題も解決していた公算が高いし、東南アジアを上手くまとめて東京が国際金融都市になっていたかもしれません。日経平均は5万円にも10万円にもなっていたかもしれません。

日米関係は重要ですが、中国はこれから10年、更にその力を強化していくとみた方が順当です。とすれば日本はアメリカと中国の間で股裂き外交を強いられるのか、それとも双方の国に日本のあるべき立場を毅然と言えるようになるのか、これは大きな違いです。

多分、ある程度の年齢の方は「そうだ」と同意されると同時に「だが、そんなのは無理だろうな」とも思っていらっしゃるでしょう。ましてや若い層の方にはそもそも外交が何ぞやということすらわかってもらえない気がします。

私は理想論を述べているのかもしれません。仮に政府や国の仕組みが独立独歩をなし得たとしてもほぼ全ての国民はアメリカ傘下の日本しか知らないのです。空回りする私の主張ではありますが、その意味するところは重要だと自負しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年4月13日の記事より転載させていただきました。