福島第一原発から排出される処理水を、二年後を目処に海に流し始める方針を、政府は昨日決定しました。
多くの方が様々な想いを発信しています。福島復興にかかわる私としても、多くの論点をどのように捉えているか、整理しておきたいと思います。
なお政府は処分に関する基本方針を公表しています。
『東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針』(4/13)
また市民団体も反対声明を公表しています。
できればニュース等だけではなく、一次情報にもあたって頂ければと思います。
■論点1 そもそも、処理水とは何であり、なぜ処分する必要があるのか
原子炉内の核燃料を冷却するために今この瞬間も水をかけ続ける必要があるため、毎日「汚染水」が発生します。ここからALPSという装置を通じて、トリチウムを除く62種類の放射性物質を取り除いた水を処理水と呼びます。これが原発敷地内に貯め続けられています。
この処理水をなぜ処分するかというと、廃炉作業を続けるためです。廃炉作業はこれからデブリ取り出しという佳境を迎えますが、増え続ける処理水は来年2022年秋には貯める限界に達します。そうなると廃炉作業が滞ってしまうのです。廃炉の進捗によって復興が左右される双葉町と大熊町は、海洋放出に賛成の立場です。
■論点2 処理水を海洋放出しても安全といえるのか
放射性物質トリチウムは水素に近く、雨水や水道水にもすでに含まれていて、外部被ばくも発生せず、また体内に蓄積・濃縮されません。そうした点から、すでに日本含め世界中の原子力発電所はトリチウムを日常的に放出しています。今回はトリチウムの濃度をこれまでの国の基準の40分の1までに薄めますから、これが正しければ安全性には問題ないと言えます。
ただし、2018年に処理水にストロンチウム90等が含まれていることが発覚。東電は再処理で取り除けると主張していますが、こうした経緯に不安をもつ人も少なくありません。
■論点3 なぜ福島の漁業者は反対しているのか
10年かけて少しずつ福島の水産業は復興を進めてきました。それが、今回の海洋放出にともなう風評被害により、また元の状態に戻ってしまうことを恐れているためです。また海洋放出は30年続くため、後継者が現れなくなることも懸念されています。また、2015年に東電が福島県漁協に対し「関係者の理解なしには、いかなる処分もしない」と回答していたため、地元漁業者は「6年前の約束が反古された」と反発しているのです。
■論点4 風評被害対策や賠償は行われるか
政府基本方針によれば、4つの段階で風評対策が行われます。
- 風評の影響が起きないような放出方法を徹底する
- 国民と国際社会への理解を醸成する
- 福島近隣の水産業にたいして流通の支援を行う
- それでも被害が発生した場合には東京電力が賠償する
ただし具体的な内容はこれから定められるため、対策が曖昧だと批判する声もあります。
■論点5 国際的にはいかに見られているか
米国や国際原子力機関(IAEA)は、海洋放出を「世界的な原子力安全基準に合致」「技術的に実行可能で、国際慣行に沿う」と賛成の立場です。
他方、韓国は「絶対に容認できない措置」、中国は「極めて無責任だ」などと強く批判的です。
■条件付きで、海洋放出に私は賛成です
この問題は福島や全国の友人たちでも賛否が分かれていますが、あえて私見を述べたいと思います。
私は条件付きで海洋放出に賛成の立場です。
理由は、一刻も早い福島沿岸の復興を願うからです。
岩手や宮城の復興まちづくりや福島の避難解除をみても、1〜2年の遅れが復興を大きく妨げてきました。廃炉は40年かかると言われてきましたが、既に遅れ始めている現実があります。ここで放出が決断できなければ、5〜10年単位で廃炉と福島の復興が遅れる主原因となったはずです。
ただし賛成する上での条件は数多くあります。まずは徹底したモニタリングです。処分する処理水にトリチウム以外の核種が除去されていて、トリチウムも規制基準を下回っていることを測定し、透明に公表し続ける必要があります。また風評被害対策が確実に実施されるか。風評は消費者よりも流通関係者におきることは分かっています。安易なPRではない市場への働きかけが必要です。そして何より、地元福島の方々との対話に向き合い続けるか。これまでの経緯で東電や政府に不信感があることが問題をこじれさせています。とりわけ政治家には、こうした難しさに向き合い続けて頂きたいと思います。
■最後に
東京電力福島第一原発は、首都圏のために電力を供給していました。この処理水問題はじめ、原発事故は数多くの不条理を福島の皆さんに強いています。私も民間人の一人として、また福島の復興に関わってきた一人として、引続き福島の不条理に向き合い続け、少しでも福島の復興が前に進むようなお手伝いを続けていければ、と考えています。
編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2021年4月14日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。