東芝よ、何処に行く?

それにしても東芝の名前ほど長年お茶の間に登場し続ける会社は少ないかもしれません。サザエさんのCMだけかと思っていましたが、コマーシャルを打たなくなってもきちんと継続的に社名を売っていらっしゃいます。皮肉はともかく、どうもすっきりしないのが今回の東芝問題の行方。車谷氏が辞任を表明したところで次のステージに入るわけですが、読みにくくなってきました。

tbradford/iStock

まず、メディアの足並みがそろっていません。産経が14日午後6時半の報道で「トップ辞任の東芝、買収提案白紙の公算 物言う株主との関係修復へ」と報じています。つまり同紙はこの買収話は車谷氏を辞任に追い込んだので終わり、とみているのです。この記事を書いているのは桑原雄尚記者でありますが、4月7日にも東芝の買収による非上場化は難しいだろうという趣旨の記事を掲載しています。

一方、日経は買収は進むどころか、東芝は複数のファンド同士の奪い合いになり、ファンド連合すら組成されるかもしれないという報道を続けています。

ロイター通信のトーンはCVCが買収を進めるための邪魔者であった車谷氏を辞任に追い込んだ、という流れになっています。つまり、これから本格的な戦国時代がやってくる、という感じです。日経の流れに近いかと思います。

どちらが正しいのでしょうか?個人的には争奪戦が起きる気がしています。CVCはファンドの持ち分を買い取り、非上場とし、株主構成を落ち着かせてから事業の再建に取り組み、数年後の再上場を目論むというものです。これは現在の基調パタンです。

ただ私が敵対的ファンドならCVCにみすみす利益を差し出すこともしないかもしれないと思っています。つまり数々のファンドはならず者ばかり故に「(価格につられて)はい、そうですか」と簡単には持ち分を売ってくれないだろうと思うのです。もう一つはファンド自体が運用先難となりつつあるのでそう簡単に埋蔵量が大きいおいしいチャンスは逃さないだろうと思うのです。

もう一つは社長に復帰した綱川智氏の手腕です。そもそも東芝問題の処理に絡み、くちゃくちゃにしたのはこの綱川氏であり、ファンドという毒饅頭を三顧の礼で迎い入れたのもこの方です。報道によればモノを決められないタイプとのことですのでこの戦国時代に右往左往するのが目に見えているのです。とすれば最後にどうなるかといえば綱川氏が絞り上げらえる最悪のシナリオも想定できます。

この一連を私なりに表現するなら車谷氏が井伊直弼、今回ばっさりやられて東芝社内の不安と海外ファンドの攻めで内憂外患となっている徳川幕府といったところでしょう。仮に歴史どおりならば東芝は誰かの手に落ちるということになります。

ではこの奪い合い合戦は上述の「基調パタン」通りに行くのか、これが私には引っかかり始めたのです。仮にあるファンドが「上場を維持しながら物言う株主たちを整理して東芝の株主構成を安定化させます」というところが出たらどうでしょうか?あるいは既存の株主ファンドが連携してCEOを送り込み、上場を維持しながら本業にまい進するというシナリオもないとは言えません。

考えてみれば綱川氏は東芝が上場廃止の危機にあることを嫌い、無理に海外ファンドに出資を求めたのです。そして苦節約3年でようやく東証第一部に復帰したばかりです。ここでファンドによる買収で上場廃止もやむを得ないと考えるならそもそも何のためにファンドを呼び込んだのか論理が全く成り立たなくなります。綱川氏の社長復帰はどう見ても6月の定時株主総会までのつなぎにも見えるのですが、既に4月中旬であり、新社長選任は当然ながらファンドとの決着がついてから、ということになるのでしょう。

ではどれぐらい時間がかかるかですが、数カ月は揉める、そしてファンド同士が敵対関係でバトルを始めれば膠着状態になり日産の御家騒動のように経営がそっちのけとなり、東芝から優秀な人材の流出が起きることも考えられます。シャープや日産の時もそうでしたが、技術系社員というのは安定した環境で自分が打ち込める仕事を求めるものです。経営問題に振り回されたくないというのが正直なところでしょう。

とすればこの一件はなるべく早く解決すること、これにかかっていると思います。綱川氏の手腕が決め手となります。さて、どうでしょうか?ウルトラCで日立がホワイトナイトで買収したら経済小説も驚きのシナリオですけれど。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年4月15日の記事より転載させていただきました。