「我々は半導体や電池など分野に積極的に投資している。なぜなら、他国がそうしているからで、我々も対応しなければならない」――ウエハーを片手に、バイデン大統領は半導体不足に取り組む断固たる決意を表明しました。3月末に提示した「米国雇用計画」で半導体サプライチェーン強化に500億ドルを盛り込んだと説明し、供給不足に全力で取り組む姿勢を強調。半導体不足は「最優先かつ喫緊の課題」と述べていました。
舞台は、4月12日にホワイトハウスで開催された半導体供給問題をめぐる企業幹部との会合です。ディース国家経済会議(NEC)委員長とサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がオンライン形式で主催し、レモンド商務長官も出席していました。
”チップ・サミット”とも呼ばれる会合の参加企業は、少なくとも以下の19社の最高経営責任者(CEO)など幹部です。
ご覧の通り半導体製造大手企業や米国内の企業だけでなく、自動車やトラックメーカー、医療機器メーカー、通信、航空・防衛と多岐にわたります。半導体不足により、自動車生産については今年130万台、年間販売台数の約8%押し下げるリスクをはらむなど、コロナ禍からの経済回復を抑えかねない状況で、他産業の各企業からヒアリングする必要があったことは言うまでもありません。
バイデン氏は、中国との競争に触れることも忘れません。「本日、超党派の上院議員23名、同じく下院議員42名からCHPS法への支持を表明する書簡を受け取った」(※書簡では72名)と明かし、その上で書簡から「中国共産党は半導体サプライチェーンの再構築と支配的立場の確立に積極的に取り組んでいる」との文言を引用。中国がこれらの目標を実現する上で巨額の資金を投じているとし、「中国やその他の国は(半導体への投資を)待ってはくれない。米国が待つべき理由もない」と語りました。
バイデン氏が会合の場で紹介した文言、実はマイルドなバージョンなのですよ。実は「中国共産党は半導体メーカーに補助金を1,500億ドル与え、世界的なテクノロジー覇権を狙い同業種に1.6兆ドル投資し、CHIPS法がかすむほど」と細かく指摘し、中国への燃えたぎる闘志を感じさせます。
そのCHIPS法は、米国の半導体シェア回復を目指し主に以下を盛り込みます。
①半導体製造施設への設備投資に2024年まで40%の所得税額控除、2025年以降は10%ずつ削減、2027年で終了
②商務省に100億ドル割り当て、半導体ファウンドリーや先端的な製造業拠点を建設する企業へのインセンティブ付与
③アメリカ国立技術標準研究所(NIST)に、先端製造技術を推進するための半導体プログラムを新設
④多国間で透明性が担保された安全な供給網を多構築すべく、新たなファンドを創設し10年間で7.5億ドル割り当て
しかし、半導体産業グループはCHIPS法を通じた政府の関与に反対を表明。理由は、連邦政府の支援を受ける対象が先端的な半導体分野に偏った傾向が認められるためで「未曽有の市場介入」と批判していました。
ただ半導体生産における米国のシェアは、1990年の37%から2020年には12%まで低下し、足元で各産業が不足に喘いでいる実態があります。だからこそ、バイデン氏は2月24日に半導体を含め4分野でのサプライチェーンの見直しを求める大統領令に署名、100日後の6月初旬に報告書が上がる予定で、それをたたき台として戦略が練り直されることでしょう。
日米首脳会談では日本の2030年の温室効果ガス削減目標の修正(2015年比で26%削減のところ、国内は45%で検討も、米国は50を求める?)に加え、半導体供給網での協力関係構築が取り上げられることになりそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年4月16日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。