約138億年前、暗黒の宇宙に通称ビックバーンと呼ばれる大爆発が起き、その瞬間、時間と空間が生まれた。同時に、生命体に必要なすべての元素、水素、ヘリウム、窒素、酸素などが宇宙空間に散らばり、その後、最初の星が生まれた。星の寿命は相対的に短く、スーパーノヴァと呼ばれる爆発が起き、ブラックホールと中性子星が生まれた。インフレーション理論によれば、宇宙空間はビックバーン後、急速に拡大していく。私たちが夜空に見る星の光は過去の宇宙生成を見る瞬間でもあるわけだ。いずれにしても、ビックバーン理論は「宇宙に始まりがあった」ことを証明している。
少々、眩暈を感じる。もちろん、不快な眩暈ではなく、ある種の感動を含む快い眩暈だ。ビックバーンから放出された全ての生命体に必要な元素は宇宙空間に広がる、生成されたガス状の星は爆発を繰返す。そしてスーパーノヴァが生まれ、ブラックホールが誕生。ブラックホールはミキサーのように全てを吸収し、混合する。そしてジェットで水素、ヘリウム、炭素、ホウ素、酸素、窒素、鉄など生命体に必要な元素を宇宙空間に吐き出す。このようなプロセスを経て、約46億年前、われわれの地球が生まれた。そして地球に生命体が誕生したわけだ。
これまで地球の生命体は海から誕生したと考えられてきた。しかし、天体物理学者たちはここにきて宇宙空間に無数に散らばる小惑星が地球に生命体の基礎素材を運んできたのではないか、と受け取られている。すなわち、地球の生命体は内から生まれたのではなく、宇宙から運ばれた原料をもとに生まれてきたというのだ。
小惑星が地球に接近し、衝突するのではないかというニュースが時たま報じられる。米航空宇宙局(NASA)は今年3月11日、小惑星「2001FO32」が21日に地球へ最接近すると発表した。甲子園より大きな小惑星が地球に衝突すれば、地球に大被害をもたらす。米地質学調査(USGS)によると、約4万9000年前、小惑星が地球に衝突し、米アリゾナ州に直径1・2キロメートルのクレーター(バリンジャー・クレ-ター)を残した。小惑星の動向を完全に掌握し、衝突を回避することは難しい。ちなみに、NASAは「地球近傍天体(NEO)は人類が完全には予測できない“ActsofGod”(神の行為)だ」と受け取っている。
その小惑星が地球に生命を生み出す原料を運んできたという説は極めて新しい。小惑星は地球に衝突することで生命を生み出すのに必要な元素を地球に持ち込んできたという。まるで栄養剤を入れた注射をするように、数多くの小惑星が過去、地球に衝突することで生命に必要な物質を運び込んできたというのだ。地球の生命体は海から誕生したといわれてきた従来の説とは明らかに異なる。地球の生命誕生について、「地球起源説」から「小惑星起源説」に移動してきたのだ。
上記の話は、独仏共同出資の放送局「アルテ」(ARTE)が宇宙の生れる歴史を紹介した番組の中で、多くの天文学者が語っていた最新の宇宙生成説の概要だ。そこで最も興味を引いた点は、先述した地球の生命誕生と小惑星の役割のほか、1人の女性天文学者が「超新星スーパーノヴァが生命体を生み出す母親のような立場で、その母親が放出する無数の生命素材をブラックジェットが宇宙空間に広げていく。譬ていえば、ブラックホールは父親の役割を果たしている」と説明していた箇所だ。
科学者はビックバーン(独Urknall)は誰が起こしたのか、その目的は何か、等はテーマにしない。現在の宇宙天文学の対象はビックバーン後、生まれた宇宙空間だ。そして最大の謎は宇宙空間を覆っている暗黒物質だ。その謎を解明したらノーベル賞受賞は間違いないといわれている。
宇宙空間を覆っている暗黒物質は何か。重力はどこからきて、なぜ宇宙空間が一定の秩序のもとに軌道しているか、その謎を解くのは宇宙全体の約96%を占める暗黒物質だと考えられている。「暗黒物質」と呼ばれるのは、その正体が分からないから、そのように付けられているのに過ぎない。
新型コロナウイルスが世界に拡大し、コロナ情報で溢れている日々だけに、宇宙の生成について頭を巡らせることはストレス解消にも役立つ。宇宙の謎の解明に挑戦する数多くの天文物理学者たちが提示する内容は現代人に大きな刺激を与えてくれる。なぜなら、地球はどのようにして生まれたのか、宇宙森羅万象はどのようなプロセスで誕生したかは他人事のテーマではないからだ。
当方は「『神は愛なり』を如何に実証するか」(2021年4月10日)という見出しのコラムを書いたばかりだ。そこでビックバーンの立役者を神、第一原因とすれば、その神は人格を有する存在か否かを考えてみた。科学者はその世界までは踏み込まないが、多くの科学者はビックバーン前の世界を否定しない。なぜならば、宇宙が偶然にできたとは考えられないからだ。
参考までに、当方は多元的宇宙(マルチバース)を想像している。暗黒物質で覆われた現宇宙と、それとは全く異なる法則が支配する宇宙が存在するのではないかという予感だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。