議事堂襲撃事件があった1月6日以来、何かと話題の米国の首都ワシントンD.C.(以下、D.C.)は、正式にはコロンビア特別区(District of Columbia)と称され、全米に50ある州とは別の特別な存在だ。そのワシントンは初代大統領に、コロンビアは米大陸の発見者に、それぞれ由来する。
この「特別区」が「州」に昇格するかも知れない投票が20日、米下院で行われるとのことなので、これに纏わる話題を以下に追ってみたい。
面積177km2・人口700千人と三浦半島(面積207km2・人口735千人)より一回り小振りなD.C.は、独立24年後の1800年に連邦13州の首都に制定され、三権のホワイトハウス、キャピトルヒル(議事堂・連邦最高裁)、各国大使館や世銀などの国際機関、ナショナルモールなどが所在する。
国立公園のナショナルモールには、D.C.を象徴するオベリスク(ワシントン記念塔)、スミソニアン博物館と総称される国立博物館群、美術館、記念館、動物園や庭園に加え、多くの研究機関などが集まる。北西から流れる全長600㎞余りのポトマック川のこの辺りは、桜の名所としても知られている。
下院管理委員会での12日の投票で下院決議に掛かることになった法案HR51では、D.C.の首都部はホワイトハウス、キャピトルヒル、ナショナルモールとその他の連邦政府に縮小され、残りが「ワシントン、ダクラス州(Washington, Douglass Commonwealth)」とい名の51番目の州になる。
このCommonwealth(コモンウェルス)とは、マサチューセッツ、ペンシルベニア、バージニア、そしてケンタッキーの4州だけが用いている、Stateとは異なる米国の州の呼称だ。いずれも由緒あるこれら4州の来し方は以下のようだ。
マサチューセッツは1620年にピルグリムファーザーズ102人(うち女性が29人)が上陸したプリマスを含み、17世紀半ばまでにコネティカット、ロードアイランド、ニューハンプシャー(これにメーンとバーモンドを加えた6州が英国王領ニューイングランド)などが分離して自治植民地になった。
ニューイングランドでは、本国英国やスペイン領の中南米と異なり、一部の年季契約奉公人や奴隷を除けば、財産の所有が広く進んでいて、約9割の住民が自由な土地保有者だった(「アメリカ大陸の明暗」河出文庫)。
ペンシルベニアは1681年にウィリアム・ペンが建てた自治植民地で、1701年に分離したデラウエア(バイデンの地元。タックスヘイブンで知られる)と共に1787年12月、全米最初の州となった。ケンタッキーは1607年にロンドン拓殖会社の移民船が上陸したバージニアから1792年に分離した。
19世紀半ばまでにルイジアナ、テキサスやカリフォルニアを取得した経緯は、それに触れた別の拙稿を参照願うとして、新しい州では、1867年ロシアから720万ドルで購入したアラスカと、1885年にパールハーバーを租借し、14年後に併合したハワイが、1959年に49番目と50番目の州になった。
そこでD.C.。HR51と同様の法案が昨年6月に下院で可決されたが、上院多数の共和党がホールドした経緯がある。今回も20日に民主党多数の下院で可決されても、共和党上院が使う「60票議事妨害(60-vote filibuster)」によって先延ばしにされる可能性があると報じられる(Epoch Tomes)。
議事妨害(filibuster)とは、米国上院で少数派が使う採決に持ち込むのを防ぐ戦術のこと。上院規則では、議員の5分の3(今の与野党勢力は50vs50)が宣誓して反対しない限り、日本でいう枝野の長広舌のように、一人または複数の議員が好きなだけそのトピックについて演説することができる。
同委員会のメンバーでアリゾナ選出の共和党ビッグス議員はHR1に反対し、その調査報告書を公表した。同議員は反対理由を、「貪欲な民主党」が「笑える(laughable)提案」をしたとし、新しい州に囲まれた都市公園より小さい(tiny)「首都地区」を作るのは酷い考えだ(terrible idea)と難じる。
加えて同議員は、HR51は憲法違反と指摘する。というのも米国憲法第1条8項は、「首都D.C.は州以外の独自の恒久的な憲法上の実体と定義している(the capital city. D.C. is defined as a permanent constitutional entity of its own, outside of a state)」からだ。
そして前掲のEpoch Timesは、「議会は、州の3分の2の議会を活用し、修正案を提案する代表者会議を召集しなければならない」との全米州議会議員会議によるコメントを掲載している。全米50州の3分の2は34州なので、先の大統領選の結果を見ても憲法改正は困難という訳だ。
先の連邦裁判所の判事増員といい、このD.C.の州昇格といい、ビッグス議員のいうように民主党の「貪欲さ」が目立つ。元々反対だった判事増員を見ても、バイデンは左派のE.ウォーレンやAOコルテスやハリス副大統領や下院を牛耳るペロシらのやり手女史に引き摺られている印象だ。