第2次冷戦は北京冬季五輪後に山場

新たな冷戦時代に本格的に突入してきた。第1次冷戦時代は欧米民主諸国と旧ソ連・東欧共産圏との対立で、後者が崩壊することで一応決着したが、それも束の間、新たな第2次冷戦時代が始まってきた。第2次冷戦では欧米民主側の顔ぶれに大きな変化はないが、それに対峙する側はロシアと中国の両国だ。

▲習近平国家主席、清華大学創設100年を記念して「国家に奉仕する世界級クラスの大学養成」を強調(2021年4月19日、中華人民共和国国務院公式サイトから)

ここで看過できない点はロシアと中国が一層連携を強めてきたことだ。ロシアは情報機関やスパイ機関を駆使し、国内外の反体制派への締め付けを強化する一方、ウクライナ東部への軍事活動を展開してきた。中国は米国と正面衝突を回避する一方、隣国アジア諸国への関与を深め、その軍事力の強化、拡大に乗り出している。反中包囲網に対しては「マスク外交」、「ワクチン外交」を展開する一方、反中言動に対しては「戦狼外交」で反撃してきた(「世界で恥を広げる中国の『戦狼外交』」2020年10月22日参考)。

米ロ関係はバイデン政権が発足した直後、既に激しい非難合戦が始まった。バイデン氏はプーチン大統領を「殺人者」と呼び、ロシアが昨年の米大統領選でサイバー攻撃を仕掛けてきたと糾弾。最近では、ロシアとチェコ両国関係が険悪化してきている。チェコ政府は、ロシアの2人の軍参謀本部情報総局(GRU)員が2014年、チェコ国内の弾薬庫を破壊したとして、最近、駐プラハ18人のロシア外交官の国外追放を行ったばかりだ。同弾薬庫はウクライナ向けの弾薬が保管されていた。

チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長は「ロシアの国家テロ事件だ」と呼んでいる。それに対し、ロシア側は今月18日、20人のチェコ外交官の追放を決めるなど、報復に出てきている。またポーランドとの関係でもポーランド外交官を国外追放処分するなど、旧東欧諸国との関係を険悪化させている、といった有様だ。

また、ロシアの反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏への毒殺未遂事件はロシアと欧米諸国との関係を一層悪化させている。ナワリヌイ氏が療養先のベルリンからモスクワに帰国直後、逮捕され、有罪判決を受けた件で、欧州連合(EU)はロシアへの制裁を決定している(「モスクワ版『1984年』の流刑地」2021年3月28日参考)。

ロシアはナワリヌイ氏毒殺未遂事件の前、英国で2018年3月4日、亡命中の元GRUのスクリパリ大佐と娘への毒殺計画を実行。事件は未遂に終わったが、英国はロシアの仕業として外交官を追放するなどの制裁を実施、他の欧州諸国もこの制裁に同調した。

米国はここにきて独とロシア間で締結した天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の建設中止を求めている。ロシアの天然ガス独占企業「ガスプロム」とドイツやフランスなどの欧州企業との間で締結されたもので、ロシア産天然ガスを欧州に供給する目的だ。米国は「ロシアが欧州のエネルギー源を握ることになり、戦時の際にはマイナスだ」として「ノルド・ストリーム2」の即中止を求め、同計画に関与している西側企業への制裁を実施中だ。

ちなみに、独ロ間の「ノルド・ストリーム2」は軍事協定「ヒトラー・スターリン協定」の再現だ、といった声がバルト3国やポーランドから聞かれる(「『ノルト・ストリーム2』完成できるか」2020年8月6日参考)。

一方、バイデン政権は対中政策では中国の覇権主義、軍事拡張、香港問題から少数民族ウイグル人への人権問題を批判する一方、米・日本、韓国、オーストラリアらと中国包囲網を構築して北京政府に圧力を加えている。それに対し、中国共産党政権はその経済力を駆使して欧米諸国の結束にくさびを打ってきた。ドイツでは2016年、中国の「美的集団」が、1898年にアウグスブルクで創設された産業用ロボットメーカー、クーカ社(Kuka)を買収。また、ギリシャは2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却している。中国の欧州市場進出は計画的、組織的だ(「独諜報機関『中国のスパイ活動』警告」2020年7月12日参考)。

2012年に政権に就いた習近平国家主席は新マルコポーロ構想と呼ばれる「一帯一路」計画を提示、アジア、アフリカ諸国だけではなく欧州、中東諸国までその覇権の手を伸ばしている。中国側の巨額なインフラ建設計画への投資オファーに乗った国々はいずれもその債務返済に苦しんでいる。最近では、バルカン半島のモンテネグロはセルビアに通じる全長165kmの高速道路建設で中国から巨額の融資を受けたが、債務返済不能状況に陥っている。

中国は米国との正面衝突を回避する一方、アジア地域では、軍事力を直実に増強している。台湾の併合を画策しつつ、香港の民主化を完全に抑圧させる強硬政策を次々と実施。米国の軍事専門家によると、中国は中距離弾道ミサイル「東風26」を増強配置する一方、長距離巡航ミサイルの開発に力を入れている。中国は既にグアムだけではなく、米本土攻撃に十分な軍事力を有している。「東風26」は核、通常どちらの弾頭も搭載可能で、移動式のため攻撃を受けにくい。

中国国営新華社通信によると、習主席は20日、「如何なる形式の冷戦にも反対だ」と表明したという。反中包囲網を構築する米国らへの警告だろう。習主席は中国共産党創立100年目の今年7月を大々的に祝い、翌年の北京冬季五輪大会(2022年2月4日開幕)を成功させたい考えだ。そのため、北京五輪大会が終わるまでは軍事力を駆使することは控えるだろう。

問題は「その後」だ。中国は北京冬季五輪大会後、欧米との軍事衝突も辞さない強硬路線を邁進する危険性が考えられる。その際、中国はロシアを陣営に引き入れ、北朝鮮、イランも同盟に加えるだろう。欧米諸国はそれまでに強固な反中、反ロシア包囲網を構築し、北京とモスクワが軍事的冒険に乗り出さないように牽制しなければならない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。