日本電産の創業者、永守重信氏がCEOを降り、関潤社長にその席を譲ります。引き続き取締役会長としては残るものの後継者問題で注目された3人(永守、孫、柳井各氏)の中では一番年齢が上(76歳)であることもあり、フルマラソンを走り切り、次のマラソンランナーの関氏にバトンを渡すということかと思います。
永守氏の後継者選びも苦労が多く、特に関氏と同じ日産出身の吉本浩之氏を社長に据えるも2年で降格させましたし、シャープ元社長の片山幹雄氏も一時は後継ぎ候補の一人だったと思いますが、永守氏のお目にかなう人に出会うのはなかなか簡単ではなかったということでしょう。
その日本電産は一般の方にはあまりなじみのない会社ですが、モーターを扱っている会社です。皆さんの周りを見渡すと実は多くの電化製品はモーターだらけ、もちろんパソコンにも入っています。そして今後の最大の期待が電気自動車のモーターであり、同社には無限の可能性があるといってよいでしょう。何十年も前、永守氏が世の中からモーターがなくなることはないと述べたのが強烈な印象となり、ビジネスの基本は廃れない産業、業種、企業だと確信を持ちました。
その点、ユニクロの柳井氏も衣食住の基本路線ながら高機能というエレメントを衣料に付加したことが圧勝の原動力だったと思います。多くのファストファッションは1-2年着て捨てるという「安かれ、悪かれ」だった業界において品質というより機能という点で挑戦を続けたことがアパレルの時価総額ベースで世界第2位にまでのし上がった背景でしょう。
ソフトバンクグループは21年3月期の決算で最終利益4兆円台後半になりそうだと報じられています。日本企業では過去最高です。今まではトヨタの18年3月期の2.5兆円が最高でしたのでそれを2倍近くにまで伸ばす驚異的な強さを見せています。もう一点注目すべきはGAFAの利益水準に追いついてきていることでグーグルが20年12月期で4.2兆円でしたのでその立ち位置からすれば日本企業の代表的存在と断言してよいでしょう。私は長年、孫氏の経営姿勢については一定の評価を続けています。一方、世論は氏に対する好き嫌いが激しく、潰れてもおかしくないなどという意見も多く存在していたのは知っていますが、私は微塵とも思ったことはありませんでした。
経営とは何でしょうか?一言で申せば組織のベクトルを明白にすること、これに尽きるのだと思います。
東電の会長に三菱ケミカルの小林喜光氏を登板させることになりました。財界畑が長く、経済同友会会長ほか数々の業界団体を率い、東芝の社外取締役にもいました。その小林氏の東電会長就任報道に対して日経のコメント欄に「火中の栗を拾うことをいとわない方」という書き込みがありました。いとわないかどうかはわかりませんが、同社を救えるような経営者に限りが出てきた点は見過ごせません。
東電を見ていると例の事故以来、夢も希望もなく優秀だった社員が後片付け仕事ばかりで完全に錆びついてしまっているのです。同社の会長にはJFEから来た数土文夫氏、日立から来た川村隆氏に期待がかかったものの改革半ばでした。電力という業種は安定供給が第一義で改革、改善、拡大という言葉とは縁遠いため、社内にそのような雰囲気が皆無なのだろうと察しています。ということは同社を変えるには新たな切り口を生み出すしかないと思います。今の東電を改革しようとしても多少の表層の変化はあってもそれ以上は何も起きない企業版「百貫デブ」なのです。
コロナ禍で多くの企業戦士は疲れています。いつ終わるかわからないこの戦いに既に戦意喪失した方もいるし、反動で異様に忙しくなってへとへと人生を送っている方もいます。企業経営者はこのアンバランスな社員への負荷を取り除き、向かうべき道を明白に打ち出し、3年後、5年後の夢を語り社員のベクトルを一方向に向かせること、これが最大の職務であります。その夢は足が届かないような話ではなく、背伸びしてもうちょっと努力すれば届くぐらいのものが良いと思います。非現実的な目標は社員の体力がバラけるのでむしろ組織をバラバラにしてしまいます。
日本電産のようにある程度組織全体の体力がついてきたら目標は必然的に高くできます。それまで年間10%の成長目標だったものを30%成長にアップしても楽に到達できるようになるのは組織故の基礎体力の強さともいえるでしょう。そういう意味では創業者の熱い気持ちはその方向性を生み出しやすいとも言えます。
どの経営者もしんどい時ですが、「明けない夜はない」と信じ、上を向いて歩き続けるしかないと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年4月23日の記事より転載させていただきました。