反対論を押しのけ東京五輪は強行開催へ

責任を果た説明さない政府

東京も新型コロナ対策の緊急事態宣言の対象地域に指定へ、という情勢の中で、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が「東京五輪の開催には影響しない」との考えを明言しました。

Ryosei Watanabe/iStock

東京五輪はスポーツの祭典に似合わず、どろどろした次元の思惑に挟まれて開催されることになる。科学的、疫学的なデータや分析は明らかにされないまま、開催したい関係者が国民、感染症専門家、医師の懸念を押し切って開く五輪となります。どろどろしています。

JOC(日本五輪組織委)も、国民が納得できる科学的、疫学的な説明責任を果たしていません。ぐずぐずしているうちに、もうやめるにやめられない選択肢しか残されていない。おなじみの日本的光景です。

新聞・テレビは五輪の協賛企業で、多額の広告収入をあてにしています。五輪の中止・延期は避けたい。「感染対策をさらに強化し、不安要素を取り除かねばならない」(読売社説、3/23)と、当然すぎる指摘です。利害関係者として取り込まれているメディアから正論は聞かれない。

是が非でも開催したいと最も願ってきたのは、IOCです。IOCと米国テレビNBCは「14年のソチ冬季五輪から32年夏まで10大会、120億㌦(1兆3000億㌦)の放映権料」の契約を結んでいます。

広告業界の関係者は「常時、巨額の収入が入ってこないと五輪組織は回らない仕組みに化している。東京五輪が中止になると、財政的に窮する」と。IOCは「無観客でも構わない。テレビ中継で放映権料が入ればいい。無チケット収入を得られない日本が困るだけ」という思いでしょう。

バッハ会長は「開催の可否の判断は、WHO(世界保健機関)の助言に従う」(20年3月)」と、約束していました。そのWHOは「五輪を実現する最もよい方法は感染を収束させることだ」(21年1月)と、当然すぎる助言です。「収束していなかったら開催すべきでない」というべきでした。

その後、WHOはどうしたか。バッハ会長は先の発言の際、「WHOからどういう助言があったかなかったか」は報道されていません。WHOは世界の感染拡大の対策で、五輪に関わるどころではないのでしょう。

バッハ会長は「コロナ下で開催された多くの国際大会で、一度も感染拡大は起きなかった」と。一万人以上の選手、関係者が来日する東京五輪も同様なのか、感染症専門家の見解を得てからいうべきでした。

日本はどうか。二階自民党幹事長が「(感染抑止が)これ以上とても無理だということなら、スパッとやめなければならない」(4/15日)と語り、中止もあり得るような発言をしました。

この発言は曲者です。尾崎治夫・都医師会会長が「各国から選手がくるのだから、無観客でも開催は難しい」と反対し、複数の海外メディも懐疑的な主張をしています。「与党としても、心配はしている」と、格好だけつけたかったに違いない。

菅首相は五輪を成功させた後、解散、総選挙に臨むシナリオを描いています。いまさら後には退けない。「五輪に失敗があって選挙に影響生じても、それは首相の責任だよ」。これが二階氏の腹の内でしょう。

政府はJOCと協力して、感染症対策専門家会議に五輪開催に関する部会を設け、知見を求めておくべきでした。それなしに日米首脳会談でバイデン大統領から「開催するための首相の努力を支持する」という応援は取り付けたものの、米側も困った。やるべきことの順序が逆だったのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年4月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。