ウィーンの世界博物館で23日、クルツ首相は記者会見を開き、新型コロナウイルス感染予防のために実施してきたロックダウン(都市封鎖)を来月19日を期して解除する計画を表明した。クルツ首相ら政権関係者は重要なコロナ関連の決定を表明する記者会見を連邦首相官邸内で開いてきたが、今回は国立図書館横にある世界博物館で開催した(筆者の一方的な憶測だが、ロックダウンの解除を国民に向かって発表する舞台装置として、華やかな世界博物館の書割が好ましかったのだろう)。
どの国でも同じだが、コロナ禍が1年半以上長期化し、コロナ規制への国民の不満、批判が高まっているだけに、ロックダウンの解除は国民が等しく願ってきたことだ。しかし、クルツ首相がロックダウン解除を表明するまでにはさまざまな闘いがあったのだろう。実際、記者会見は最初は同日午後2時の予定だったが、午後3時半に遅らされたのだ。ロックダウンの解除表明に対して政権内外で土壇場まで賛否両論があったことが窺える。
クルツ首相は記者会見で「長いトンネルの先に光が見えてきた」と封鎖解除計画を称賛する一方、「もちろん、慎重に対応しなければならないが、ワクチン接種テンポが加速され、正常化へ大きく前進してきた」と説明、「コロナ規制を遵守しながら慎重な封鎖解除だ。コロナ検査、ワクチン接種、コロナ回復者はエントリーへの許可書、グリーン・パスだ」と述べている。
ロックダウン解除表明を歓迎する側は第一に経済界だ。同国では感染症予防対策は連邦政府ではなく、州の管轄だ。その州責任者の多くは封鎖解除を支持してきた。野党の中には慎重派、歓迎派と様々だ。慎重派はウイルス学者、免疫学者ら専門家に多い、と色分けできるだろう。そのような中でクルツ首相は今回のロックダウンの全面的解除計画を明らかにしたわけだ。ロックダウン解除はコンセンサスで決定されたというより、クルツ政権主導の冒険的決定という面も否定できない。
クルツ首相が発表したロックダウン解除計画の内容を簡単に紹介する。
2020年4月の最初のロックダウンから営業閉鎖に追い込まれてきたレストランなど飲食業界や観光業界、イベント業界、博物館、劇場、文化、スポーツ分野は来月19日を期して再開するという。それに先立ち5月17日から学校を全面的に開く。
全ての解除措置はコロナ規制(FFP2マスク直用、ソーシャルディスタンスなど)を遵守することが前提で、コロナ検査の陰性証明書、ワクチン接種パスの提示などとリンクされている。文化イベントでは室内(最大1500人)と屋外(最大3000人)で参加者数の制限がある。飲酒業界では室内は1テーブルに子供を除き4人まで、室外は最大10人。営業時間は夜10時までだ。劇場や映画館では席と席の間を2mの間隔を取る。11人以上のイベントの場合(国際会議など)、通達義務があり、51人以上の場合、保健省の認可が必要となる。室内スポーツでは1人当たり20平方メートルの空間を必要とし、スポーツをしている時はマスク着用義務はない。
今回の封鎖解除は州レベルではなく、連邦レベルで同時期、一斉に実施することになっている。ただし、州によっては来月19日から全面的解除を実施しない場合も考えられる。例えば、ウィーン市(特別州)は5月19日からの封鎖解除には慎重な姿勢を崩していない。ルドヴィク市長(社民党出身)は、「コロナ感染状況をみれば、新規感染者が増加し、病院の集中治療ベットの空きが減少している時、封鎖解除は危険だ」という。
オーストリアは9州から構成されているが、封鎖解除歓迎派はニーダーエースターライヒ州、オーバーエスターライヒ州、シュタイアーマルク州、ザルツブルク州、そしてチロル州だ。慎重派はウィーン市、ケルンテン州といった色分けだ。換言すれば、中道右派のクルツ首相の与党国民党が率いる州は封鎖解除を歓迎する一方、社民党が主導するウィーン市、ケルンテン州は慎重派の陣営に入る。
政党では、極右政党「自由党」は「FFP2マスク着用やコロナ検査の強要はコロナ・アパルトヘイト政策だ」と批判。同党のキッケル院内総務は議会内でもマスクの着用を拒否している確信犯だ。同党はクルツ政権が導入を計画しているグリーン・パスの導入には反対だ。リベラル政党「ネオス」は「ロックダウンで損失した分を日曜日の営業許可で補填すべきだ」と述べている。
商工会議所のハラルド・マーラー会長は封鎖解除、営業再開を歓迎し、「全ての業界が公平に再開できる今回の封鎖解除は国民全てに良きシグナルを送ることになる」と評価している。教育界も封鎖会場には歓迎する一方、教師へのワクチン接種の実施を要求している。
ワクチン学者の中にもノルベルト・ノヴォト二イ氏は「新規感染者が増加し、ウイルスの変異株が拡大している時、室内のイベント開催の許可など非常に大胆な決定だ」と受け取っている。
なお、23日の記者会見で最も印象深かったのはエリザベト・ケスティンガー観光相の笑顔だ。同相は、「これでレストランなど飲食業界や観光業界の営業が再開できる。関係者はこの時を首を長くして待ってきた。これで美しいサマー・シーズンを迎えることができる」と喜んでいた。
ミュクシュタイン新保健相は、「コロナウイルスはまだ終焉していない。新規感染者が増加したり、変異株が登場して猛威を振れば、追加対応が必要となる」と警告を発する一方、「学校の再開は良きステップだ」と指摘した。若い世代にロング・コビッド症候群が広がり、精神的に悩む学生、生徒たちが増えてきているからだ。同国では小学校は週5日間授業だが、それ以外の学校の生徒は週交代制で授業を受ける。
オーストリアの新型コロナ感染状況(2021年4月24日午前8時現在)
累積感染者数・・・60万3489人
回復者数・・・・・56万8213人
死者数・・・・・・・1万0055人
入院患者数・・・・・・・1866人
集中治療患者・・・・・・・517人
オーストリアで昨年12月27日、基礎疾患のある80歳以上の高齢者が国内で最初にワクチンの接種を受けた。4カ月が経過する4月23日現在、オーストリアで1回目のワクチン接種者数は193万0800人で全体の21.69%、2回のワクチン接種を完了した国民は76万2975人で全体の8.57%だ。同国ではワクチン接種を受けられる16歳以上の国民の総数は753万1239人。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。