与党全敗で貧乏くじを引き続ける菅首相

前政権の残務整理

広島、長野、北海道の衆参3選挙で、与党は全敗しました。「カネと政治」「後手後手のコロナ対策」が争点だったとされます。菅首相は「国民の審判を謙虚に受け止める」と語りました。

菅首相 首相官邸HPより

選挙の敗北は菅首相の敗北であるにしても、全てが首相の責任かといえば、どうなのかなと思わざるを得ません。安倍長期政権の残務整理という損な役回りを引き受けさせられています。

最大の山は大規模選挙買収事件を起こした広島の敗北で、「金権政治に対する有権者の厳しい姿勢の表れ」(朝日新聞社説)は確かです。買収事件の発端は、河井夫妻側に自民党から提供された資金にあります。

19年参院選で自民党から、河井案里氏と溝手顕正氏の2人が立候補しました。選挙資金は河井氏に1億5千万円と桁外れの巨費、溝手氏の10倍だったといいます。溝手氏は安倍前首相との間で確執があり、河井氏に勝たせるための資金だった。それにしても巨額です。

自民党幹事長の二階氏も1億5千万円の供与に同調したのでしょう。票を買収したとされる河井案里氏は当選し、溝手氏は落選しました。選挙後、大規模選挙買収事件が発覚し、案里氏は逮捕され議員辞職しました。後釜の自民党候補が金権批判から落選し、与党は全敗となりました。

菅氏は官房長官を務めていましたので、責任はあることはあるにしても、事件の主たる責任は安倍氏、二階氏にある。3戦全敗の責任を問われる菅氏は貧乏くじを引く巡り合わせとなりました。

全敗のもう一つの原因は右往左往しているコロナ対策です。コロナ危機は安倍前首相当時の昨年2月から顕在化しました。3月には東京五輪の1年延期を決定し、4月に緊急事態宣言を発令しました。

この間、安倍氏は事前のすり合わせもなく、突然2月に全国一斉休校を宣言しました。コロナ危機対策の先頭に立つ姿を印象づけたいという政治的な計算が働いた。社会経済活動を過剰に自粛させるという路線が安倍氏が敷き、今もそれが継続しているということです。

菅首相にも責任があります。コロナ対策を田村厚労相、西村経済再生相、さらにワクチン担当相に河野氏を任命するなど、船頭ばかり増やし、指揮系統が混乱する原因を作っています。

東京五輪との関係では、安倍氏が自分の総裁任期中(21年10月まで)の開催にこだわったのでしょうか、1年延期(21年7月開催)を譲りませんでした。2延期にしておけば、こうまで混乱はしなかった。

ころころ変わる菅政権のコロナ対策が「五輪開催のため」とされる原因は安倍氏に端を発します。菅氏も「人類がコロナに勝った証」とか「世界の団結の象徴」など、思い付きのフレーズを掲げるものだから、引っ込みがつかない状態に自ら追い込む愚を犯しています。

首相となったからには、巡りあわせがどうであれ、結果責任から免れられない。解散総選挙は秋を選ぶしかない。どう立て直すか。

「次の首相には誰がふさわしいか」という世論調査(読売、3月)では、「1位河野太郎、2位石破茂、3位小泉純一郎」ときて、「6位菅義偉」でわずか3%の支持、これが首相に対する評価です。

「何を実現したいのか、もっと体系的に大きなレベルで打ち出す必要がある。政権としてもっと大きな絵を描くところまで至っていない」(政治学者の御厨貴氏)と、周囲は手厳しい評価です。

「自分の言葉で話す訓練が決定的に足りていない」(同氏)とまで酷評される菅氏が首相にまで上り詰めた。二階氏がまず担ぎ、麻生氏、細田氏らが雪崩を打ったように支持に回った。「無派閥で軽量だから、自分の都合のいいように動かせる。いつでも下ろせる」と踏んだ。

安倍氏も自分の官房長官だったから、都合の悪い案件は表沙汰にしないだろうと、考えたのでしょう。菅氏は「貧乏くじを引いた。前政権からのお荷物を担がされている」と思っても、文句は言えない。

力量が危ぶまれる菅氏を選んだ側に、本当の責任があります。日本の無責任政治の一端を垣間見る思いです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。