ワクチンによる感染爆発が起こっているのか

仁井田 浩二

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載30)

前回の記事「ワクチンによる新型コロナ感染の収束」を発表するとほぼ同時に、池田信夫氏の「インドの感染爆発はなぜ起こったのか」が掲載されました。

池田氏の着目点は、インドを筆頭にアジアの国々で感染爆発が起こっていて、それらの国々の共通点は、ワクチン接種率が高く、アジアのBCG接種国である。アジアのコロナ感染率が低い原因のひとつとして、BCGによる訓練免疫などのファクターXが想定されたが、これがインド変異株にはきかない、むしろアジア特有の条件がワクチンの副作用に悪い影響を与えているのではないか、というものです。

da-kuk/iStock

確かに、これらの国々では、今年の3月以降、ワクチン接種率の増加と、感染増加の間に相関が見られます。しかし、ワクチンの接種率は未だそう高くなく、時系列的には、因果は逆ではないかと思い調べてみました。

本連載のこれまでの解析では、日本以外、アジアの国がなかったので、インド、モンゴル、それとトルコの3カ国を加えました。これらは全てBCG接種国です。ただ、今回はこれらの国の計算は行っていません。データ解析だけです。

まず、新規陽性者の動向です。図1に、日本、インド、トルコ、モンゴルの新規陽性者数の変化を示します。人口当たりでなく実数の対数表示です。

インドは、昨年中、ほぼ幅広の大きなひとつの山になっています。これはアメリカやブラジルと同様に大国の特徴で、地方ごとに見るとピークを形作る分布ですが、それらに時間的なずれがあって、全体では幅広の分布になります。しかし、今年の3月に入り全体として鋭いピークを形成するような急上昇を示しています。

トルコは、第1波は日本と同じ時期、第2波が日本の第3波の時期、そして3月に入り第3波が始まり、ピークアウトしそうな様子です。

モンゴルは、昨年は日毎の新規感染者が100人を超えない感染状況であったものが、やはり、今年3月から急上昇し、初めて波と呼ばれるようなピークを形作る勢いです。ピークアウトの兆候が少し見えていて、これがモンゴルの第1波になると思われます。

次にワクチン接種率です。図2に、これまで解析してきた11カ国と、今回のインド(現在8.5%)、トルコ(現在16%)のワクチンの接種率を示します。モンゴルはこの図には入っていませんが、他のデータでは、現在21%位です。

図1の新規陽性者数は、今年の3月に入り、4カ国とも同期したように上昇を始めました。おそらく感染力の強い変異株の拡大です。この傾向は前回の連載でも指摘したように、世界的に見られる傾向です。これがインドのような大国内で、逐次的に起こるのでなく、同期して起こると、感染爆発と呼ばれる鋭いピークとなって現れます。

そこで、今回のインド、トルコ、モンゴルの陽性者数の変化を、前回の9カ国の図に書き加えてみました。

図3は、3月8日の各国の陽性者数が、日本の3月8日の陽性者数と同じになるように係数(図中に示している数)を掛けて規格化しています。この図は対数表示ですから、係数を掛けても、グラフは上下するだけで、変動の形は変化しません。

3月8日から現在までの期間がグレーの領域です。各国とも同期して上昇し始め、その後、下降フェーズに入っています。この下降の傾きとピークアウトの時期が各国異なりますが、この差異に、ワクチンの接種率の効果が現れているというのが前回の考察です。

3月8日の段階でのワクチン接種率が高いイスラエル(57%)、英国(約30%)は、小さいこぶ状の上昇の後、急激に下降、米国(18%)ベルギー、フランス、スペイン、ドイツ、スウェーデン(各国とも約6%前後)は、比較的小さなピークを形作り、その後ピークアウトし下降を始めています。

日本は、3月8日時点で1%以下ですから、そのまま上昇し、現在の第4波を形成しています。日本は、現在でもワクチン接種率はまだ2%くらいですから、近日中に第4波がピークアウトした場合でも、まだ、ワクチンの効果とは考えられません。

トルコは、3月8日時点で、接種率が約9%、現在16%ですから、現在見えているピークアウトの動向に、ワクチンの感染抑止効果が多少現れているように見えます。

インドは、3月8日時点で、接種率が約1.3%、現在でも8.5%ですから、感染抑止の効果としても、感染拡大の何らかの要因としても、その効果が国全体の陽性者数等のマクロな量に表れることは、まだないように思われます。

モンゴルは、3月8日時点で0.6%弱と低かったのですが、急激に接種が進み現在約21%の接種率です。まだはっきりとは見えませんが、ピークアウトの兆候にワクチンの効果が現れているのではないかと思います。

結論として、インド、トルコ、モンゴルを加えても、図3で示されている3月からの全世界的に同期した変異株の感染拡大に対して、ワクチン接種が感染爆発の原因になっているのでなく、その抑制に効果を表しているように見えます。即ち、インドの感染爆発は、変異株の感染拡大に対して、未だ、ワクチンの抑止効果が現れていない状態ではないでしょうか。日本を含め、今後のワクチン接種の効果が期待されます。

池田氏も述べているように、これはあくまで統計データの話であり、医学的な微視的なメカニズムからの解明が待たれます。