スパイや尾行?そりゃ、映画か週刊文春の世界だろう、というのは平和な証拠。世の中、様々な目的で情報を得ようと国家や企業、時として個人がこっそりあなたを見ているかもしれません。
一般の人に馴染まないけれど「あー、あれね」と思いだすのが浮気調査に素行調査でしょうか?テレビドラマにも時折出てきます。調査員が喫茶店で依頼主と会い、茶封筒からおもむろに証拠写真を見せる、というやつです。あれは別にドラマの世界だけではなく普通にあり、インターネットで探せば業者はいくつも出てきます。ちなみに興味本位で価格を見たのですが、ざっくり50万円ぐらいでしょうか?それを高いとみるかどうかはそれぞれです。LINEに残されていたメッセージでばれるぐらいならかわいいものです。
企業ベースになると様々な「調査」があるようです。私が知るのが新入社員採用の際の身分調査で最近はどうか知りませんが、昔は驚くほど緻密にやっていました。言うのが憚れますが昔はいわゆる同和調査もやっていました。一般には入手できない例の名簿があり、様々な背景調査が行われていたようです。
そういう私も就職試験の際、引っかかりました。ソ連とか戒厳令下のポーランドに滞在していて卒論テーマは「東西貿易」でしたから採用担当者は「こいつ、アカか?」と思ったのでしょう。社長面接終了後、人事担当者から私のゼミの教授に電話が掛かってきて背景確認をしたたそうです。教授は笑い飛ばしたそうで、内定を頂きました。(結局その会社にはいきませんでしたが。)
日経ビジネス電子版に「あなたの隣の中国スパイ、マッサージ師も観光客も」とあります。かつては中国に行けば行動監視されていると思え、というぐらいでしたが、日本にいる中国人にも注意しろ、ということなのでしょう。かつて一部でニュースになったように中国は人民解放軍の傘下に諜報部隊がありそこがサイバー攻撃から諜報活動まで行っています。
諜報の基本は協力者の確保であります。つまり、冒頭の浮気や素行調査の場合はシンプルですが国家間の情報マターや洗脳活動、クーデターレベルになるとこれは諜報部員だけではできません。そのため、通常、「協力者」と称する民間人がそれをサポートするのです。尖閣や南シナ海で展開する中国漁船員は協力者です。一般人なのですが、諜報部隊や軍と繋がっていて一定の関係が出来ています。それと同じで企業に在籍する社員が諜報するのも一般的手口と言ってよいでしょう。アメリカ留学している中国人は学生から研究者まで人民軍と繋がる仕組みがあるため、協力者として疑ってかかれという状況です。
私の知る限り、日本の諜報能力は戦前は大変高いもので諜報のみならずクーデターを含むさまざまな転覆行為を行ってきました。満州、中国のみならず、東南アジアにも広く張り巡らされ、例えば話題のミャンマーでは日本の特務機関である「南機関」が活躍したところでビルマと日本の架け橋となったのです。アウンサンスーチー氏の父、アウンサン氏は南機関と共闘し日本政府からの支援もあったものの途中から英国に寝返りをうったという知る人ぞ知る話もあります。
南機関など〇〇機関というのは私の知る限り20近くあったと思います。いわゆる諜報の小組織で、例えば機関名の「南」というのも偽名で鈴木大佐が機関長でした。当時の工作員は情報だけでなくさまざまな「行為」まで行っており、それが戦後にも当然引き継がれています。吉田茂の大磯の家には2人の別々の諜報員が書生などとして居つき、皆誰も気が付かなかったという落ちもありました。
「日本の黒い霧」と言えば松本清張の代表作ですが、そこに出てくる数々の事件、特に国鉄絡みの3つの事件(下山、三鷹、松川事件)は個人的には諜報部隊が絡んでいる気がします。また、GHQでもウィロビー傘下のG-2(参謀第二部)で日本の諜報との協業があったことも知られています。
陸軍中野学校が諜報の専門学校として君臨したもののそれが閉鎖され、日本でスパイ活動が表向きできなくなりました。中野学校卒業でそのまま海外に居ついた諜報部員も相当数あり、北朝鮮、中国国民党をはじめ東南アジアにも足がかりを作っています。戦後、日本人のスパイは育成されない一方、海外では普通に諜報は行われているので諜報の防御も弱くなっているというのが実情なのでしょう。それがスパイ防止法制定の必要たるゆえんです。
諜報が頭にあるとどうしても性善説、性悪説が出てきます。性悪説が身につき、海外にいると「怪しい匂い」に身構えたりすることもよくあります。パソコンなんてリモートでいくらでも入り込めるので本当に気をつけなくてはいけない時代になったものです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年4月29日の記事より転載させていただきました。