大きな政府を掲げるバイデン大統領、就任100日で支持率は低空飛行

バイデン大統領は4月28日、就任100日を前に議会上下両院の合同会議で施政演説を行いました。

The White House HPより

バイデン氏は、冒頭「マダム・スピーカー、マダム・バイス・プレジデント」とペロシ下院議長とハリス副大統領を「マダム」の敬称で呼びかけ、「かつてこの演壇からこうした言葉を使った大統領はいない。その時がきた」と語り、歴史的な瞬間の到来を全米に伝えました。そして「今夜、国家を再建し、民主主義を復興させ、米国の未来を勝ち取るべく、危機と機会について話すためにやってきた」と発言。①今世紀最大のパンデミック、②世界恐慌以来で最大の経済危機、③南北戦争以来で最悪となる民主主義への攻撃――等に直面するなか、米国は困難を乗り越えると高らかに宣言しました。

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女性初の副大統領、下院議長として歴史的な肘タッチをするハリス氏とペロシ氏 出所:The Recount/Twitter

その成果として、主に以下の4点を挙げています。

1)1.9兆ドルの追加経済対策”米国救済計画法”の成立
2)ワクチン接種は100日で1億回という選挙公約を超え、2億回を突破
3)全米で16歳以上の米国民がワクチン接種の対象に
4)かつてない雇用の創出、IMFによれば2021年の米成長率は6.4%(FOMCは3月時点で6.5%と予想)

さらに、米国は21世紀において勝利をもぎ取るべく、中国を始め各国と競争状態にあると述べ「一世一代の」”米国雇用計画”の必要性を説きました。ホワイトハウスにに掲げる最優先事項のひとつである「雇用=job」の言葉は、米雇用計画での使用分を除き43回登場しており、いかにバイデン政権にとって、経済と雇用の回復が重要か浮かび上がります。また「雇用、雇用(jobs, jobs)」と連呼する過程では、気候変動サミットでの演説で用いた「気候変動について思いを馳せる時、雇用という言葉が浮かぶ」との台詞を再度使用、気候変動対策を通じた雇用創出を狙う姿勢を強調。その象徴として「北京ではなく、ピッツバーグに風力タービンを設置できない理由は見当たらない」と述べ、米国内での再生可能エネルギーの推進を促していました。

施政演説で最大の注目点は、”米国家族計画”の概要です。10年間に1.8兆ドル投じ、主に以下の4つの柱で構成されています。

・教育機会の拡大
→3~4歳向けに幼稚園前教育の無償化、地域の高等教育機関でるコミュニティーカレッジの2年間の学費無料化、ペル奨学金(給付型奨学金)の拡大、歴史的黒人大学(HBCUs)やマイノリティ受け入れ大学(MSIs)への投資拡大
・育児支援
→中低所得者層の託児所利用の負担を所得の7%までとするよう補助金を支給
・有休制度の導入
→家庭と仕事を両立できるよう、最大12週間の有休制度を導入
・育児向け税控除の導入
→追加経済対策”米国救済計画法”で成立した1年のみの扶養控除を2025年まで延長

財源は以下の通りで、10年間で1.5兆ドルの税収を見込みます。

・所得税の最高税率を37%→39.6%へ引き上げ
・年収100万ドルの富裕層を対象に、キャピタルゲイン税を20%→39.6%に引き上げ
・相続資産の売却益につき、被相続人が取得した当時からリターンを含めた価格ではなく、相続時の市場価格に修正するステップアップ方式の廃止
・ヘッジファンドなどの運用者が受け取る成功報酬(キャリード・インタレスト)に対し、税優遇祖措置を廃止

逆に、相続税の対象引き下げ(現行は1,170万ドル以上)、現在1万ドルとなっている州・地方税(SALT)の税額控除の上限の引き上げについては、盛り込みませんでした。

今回、アドリブもみられました。例えば、億万長者の存在を否定する民主党左派のプログレッシブに対し「ビリオネアやミリオネアになってみるといい」と語り掛ける場面も。こうした表現をみると、富裕層を対象にしたキャピタルゲイン税の引き上げ幅は、今後妥協の余地がありそうに見えます。その他、銃規制に関して、責任ある銃保有者は軍が使用するような銃器の規制を批判しないとの流れで「防弾チョッキを着た鹿を見たらどう思うのか」とジョークを飛ばしたものです。

バイデン氏の演説通り、政権は発足100日以内に様々な功績を残しました。米国救済計画法米国雇用計画、さらに米国家族計画を合わせると、経済支援は約5兆9,500億ドルと、トランプ政権で成立したコロナ禍での経済支援策(約3.1兆ドル)を大幅に上回ります。そこで、気になる支持率をみてみると・・実は就任約100日では1953年に就任したアイゼンハワー大統領以降、過去3番目に低いのですよ。

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チャート:各大統領、就任100日前後の支持率 作成:My Big Apple NY

支持率は伸び悩みますが、就任100日の株価パフォーマンス(バイデン氏は100日以前の4月28日まで)は8.7%と、1950年以降で2番目なんですよね。

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チャート:各大統領、就任100日の株価パフォーマンス 作成:My Big Apple NY

前例のないコロナ禍でバイデン政権は歴史的な瞬間を迎え、大きな政府へ舵を切ったバイデン政権。現金給付の恩恵を受けながら米国民の評価は意外に冷静で、ビートルズの名曲を思い出してしまったのは筆者だけでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年4月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください