(モンテカルロシミュレーションで検証 連載31)
現在、爆発的感染拡大をしているインドの変異株に、これまで言われていたアジアや日本の優位性、所謂「ファクターX」は効かないのでしょうか。
アジアの感染拡大と、ワクチン接種開始の時期が重なったため、ワクチン接種と感染拡大の関連が話題になりましたが、前回の記事「ワクチンによる感染爆発が起こっているのか」で、インド、トルコ、モンゴルなどの感染拡大は、全世界的に同期した変異株の感染拡大によるもので、ワクチン接種は抑止効果こそみられるが、誘発する因子ではないのではないかと結論しました。
インドの変異株と「ファクターX」についても、この「全世界的に同期した変異株の感染拡大」がキーワードになります。
図1は、3月8日の各国の陽性者数を、日本の3月8日の陽性者数と同じになるように係数(図中に示している数)を掛けて規格化しています。この図は対数表示ですから、係数を掛けても、グラフは上下するだけで、変動の形は変化しません。
3月8日から現在までの期間がグレーの領域です。3月8日を境に、各国とも同期して上昇し始め、その後、下降フェーズに入っています。この下降の傾きとピークアウトの時期が各国異なりますが、この差異に、ワクチンの接種率の効果が現れているというのが前回の考察です。
まず、「ファクターX」を示すデータを見てみましょう。
図2は、米国、フランス、日本、インドの新規陽性者数(人口100万人当り)の昨年3月からの変動です。日本、インドは圧倒的に米国、フランスより小さいことが分ります。積分した全陽性者数は、ほぼ2桁違います。この差をもたらしている要因が「ファクターX」と呼ばれるものです。
「ファクターX」の要因は、免疫特性、自然免疫や交差免疫の差であるだろうと言われています。これは、個々人がその地域や国民に特徴的な免疫力をまんべんなく持っているというのではなく、免疫力の強い、簡単に言うとコロナに罹りにくい人の割合が、地域や国民で差があるということではないかと思います。
図3は、日本とインドだけの拡大図です。日本は第1波、第2波、第3波、そして今回の第4波と分離できる、ある幅をもったピークを形作っていますが、昨年のインドは、ほぼ幅広のひと山です。
この傾向は、大国に特徴的なことで、米国やブラジルでも国全体としては、分離できるピークではなく、幅広の分布を示しています。大国では人口が多く広い地域に分布しているため、地域ごとで見ると、分離したピークに見えても、地域間には感染の時間差があり、重ね合わせると幅広の分布になります。
インドの昨年の新規陽性者数の変化を、簡単な計算モデルで模擬したものを図4に示します。ここでは、例えば7つの地域があるとして、その地域ごとに7つのピークが少しずつ時期をずらして発生したとします(緑の7つの山)。これを足し合わせると、全域の陽性者の幅広の分布になって現れます(青線の幅広の山)。
問題は、図2、図3のインドの3月からの感染爆発です。この急上昇が、これまで「ファクターX」で守られてきたインドの状況を破壊し、西欧並みの感染爆発に至るのかということですが、もしそうであれば、既にこのインドの変異株は日本国内で観測されていますから、今後の日本にとって重要な問題になります。
図4の右側に、図2、3に現れている鋭い感染上昇を模擬した鋭いピークを描いています(赤いピーク)。実は、この赤い鋭いピークは、左の7つのピーク位置を同じ日に重ね合わせたものです。従って、左の青の幅広の面積(陽性者数)と右側の赤の鋭いピークの面積(陽性者数)は同じです。
これは、変異株の感染速度が速く、7つの地域それぞれの緑のピークが3月から同期して起こった場合を模擬したものです。青線部との違いは、感染速度が速いために同時に起こったということだけです。結果、図4の赤線の激しいピークが出現します。各地方で「ファクターX」の効果が健在だとすると、この赤のピークに含まれる感染者総数は、青と同じ程度の人数で止まるはずです。これが模擬図4から分かることです。
今後、インドの感染爆発が、図2、3の現状程度の感染ピークで終わるならば、「ファクターX」は、この変異株にも効いていることになります。今後、インドの感染拡大の動向を注視しなければなりません。
図1で示しているように、3月からの全世界的に同期した変異株の感染拡大に対して、ワクチン接種率が高い、イスラエル(62%)、英国(50%)、米国(43%)、ヨーロッパ(25%)、の感染拡大の抑止傾向と、ワクチンの接種率には明らかに相関があります。いまのところ、はっきりと効果が現れているのはワクチンだけです。