マリコパ郡といえば、昨年11月の米大統領選で親トランプと目されるFox newsが、投票日当日に早々バイデン勝利を打ったアリゾナ州の州都フェニックスのある、全米で2番目に大きな選挙区だ(最大はロサンゼルス)。そのマリコパで目下、大統領選の2百万票を超える投票の監査が進行している。
アリゾナでの先の大統領選を振り返れば、州の投票総数は3,333,829票、うちバイデンが1,672,143票を取り、トランプの1,661,686票に対し10,457票の僅差で選挙人11人を獲得した。このうちマリコパ郡の投票数は2,036,439票で、州全体の投票数の61%という多きを占めていた。
全米50州の州都所在郡の投票が州の50%を超えるのは他に、ネバダ州クラーク69%、ハワイ州ホノルル67%、そしてデラウエア州ニューキャッスル57%の3州だけ。しかもネバダ(137万票)以外は50万票前後で小規模だ。画像流出で話題になったジョージア州(490万票)のフルトン郡は11%、50州の平均は18%だから、マリコパは確かに特異だ。
さらに詳しくアリゾナの投票状況を見ると、前回16年のヒラリーvsトランプの選挙では、州総数240万票のうちトランプ125万票vsヒラリー116万票と9万余票の差でトランプが勝ち、マリコパでもトランプ74.7万票vsヒラリー70.3万票と4.4万票差でトランプが制した。
これに対し、前回より93万票余りも投票数が増えた20年の大統領では、バイデン167.2万票vsトランプ166.2万票と1万余票差でバイデン逆転勝利し、マリコパでもバイデン104.1万票vsトランプ99.6万票と4.5万票差でバイデンが制した。つまり前回から約9万票逆転した訳だ。
16年のヒラリーと比べたバイデン票の伸び率は州全体44.0%vsマリコパ48.1%と、マリコパが州全体を4ポイント上回った一方、トランプは州全体32.7%vsマリコパ33.2%とほぼ変わらぬ伸び率だ。やはりマリコパでのバイデンの伸長率が突出する。
これらの数字が、州の共和党やトランプがマリコパの204百万票の監査に拘る所以なのだろう。が、政治メディアThe Hillは「過去3回のレビューで重大な詐欺の証拠は見つからなかった」とし、同じくPoliticoも「マリコパ郡監督委員会は2月、不正が発見されなかったとの法廷監査を発表した」と報じている。
■
今回の監査は、共に同州の共和党上院議員である司法委員会議長ウォーレン・ピーターソンと上院議長カレン・ファンが1月に提起した文書提出命令で提出させた投票用紙204万票や集計機約400台などについて、州議会上院が独自に行うもの。ピーターソンは以前の郡による監査が「深さ1インチ」の不十分のものだったと述べる。
が、監査はすんなりとは始まらなかった。19日の週に州民主党が、監査は有権者のプライバシーを侵害するとして、中止を求める訴訟を申し立てたのだ。州上級裁判所のクーリー判事は、申立人が保証金100万ドルを積めば一時中止すると述べたものの、申立人がこれを拒否した直後、裁判官を辞任してしまう。
辞任理由は監査と関係のない別の事案とされる。そこで26日、かつて民主党が任命した上級裁判所のマーティン判事が担当に指名された。同判事は、原告は「有権者のプライバシーの侵害または侵害の脅迫の実質的な証拠」を提供しなかったと前判事の判断を支持し、同日から監査が始められた。
監査を行う4社にも曰くがある。そのうちの1社で主導会社の「Cyber Ninjas(サイバー忍者)」はフロリダを拠点とする選挙監査の実績がないアプリのセキュリティ専門会社で、CEOのダグ・ローガンはドミニオン集計機に関する投稿をシドニー・パウエル弁護士のサイトに行った人物だ。
目下、ドミニオン社から膨大な金額の名誉棄損訴訟を受けているパウエル弁護士はニュースレターでこの監査を称賛し、「多くは共和党員でもトランプ支持者でもない愛国者が、不正のない選挙のために戦っている」、「監査は24時間9台のカメラでライブ中継し、完全に公開される」と書いている。
他の3社は前にジョージア州フルトン郡で手作業による再集計を実施したWake Technology Services、そしてCyFIRとDigital Discoveryで、すべて州外の企業。それらへの費用は一部が公費、一部は監査をライブ中継する親トランプのケーブルチャンネルOne America News Networkが調達するという。
アリゾナ上院は、監査は60日間にわたって「広範かつ詳細」に行われ、「投票プロセスのすべての領域を検証」するとし、すべての投票用紙のスキャン、完全な人手の再集計、有権者登録と投票の監査、投票数、および電子投票システムの監査などが含まれると述べる。
では監査がアリゾナの選挙結果を覆すために使われるかといえば、州の上院共和党も「それはあり得ない」とし、監査は単に選挙プロセスに有権者の信頼を回復するためであり、20年の選挙を契機に他の共和党多数の州(ジョージアやフロリダ)で既に完了しているか、取り組んでいること(選挙法改正)と同じだと述べている。
だが、当のアリゾナ州上院共和党は結果を覆すための監査でないというものの、仮に州全体の10,457票差がひっくり返る結果が出れば、民主党は監査の不正を言い立てるだろうし、一方の共和党はここぞとばかり他の接戦州にも今回の手法を波及させることになるだろう。
これに関してトランプは、最近の声明で「20年の不正な大統領選挙に関してアリゾナで行われている信じられないほどの組織と誠実さ」、「彼らは偉大なアメリカの愛国者ですが、注意してください、急進的な左翼民主党員の卑劣な破壊キャンペーンがすぐに始まる」と煙に巻くが、来年の中間選挙と24年の大統領選に向け、共和党内での存在感はさらに増しつつある。
先般、菅総理は外国首脳として初めてバイデン大統領との会談を行った。が、その共同声明について賛否両論があるのと同じ様に、漸く合同会議で演説を行ったバイデンに対しても、その職務遂行ぶりや中国に対する物言いに実行が伴うかについて、確信が持てないとの諭評が少なからずある。
いずれにしても、この米国のあり様といい、新型コロナの評価(死者の死因が本当にコロナなのか、別の原因で死んだ者からウイルスが検出されただけなのか)や対応(2類の扱いを続けるか、インフルエンザ並みにするか)といい、真相が判らないまま世界があらぬ方向へ動いてゆく様な気がしてならない。