読売新聞読者は大阪コロナ高齢者入院制限の心配無用

筒井 冨美

2021年4月30日、新型コロナウイルス(以下コロナ)対策に関連し、読売新聞が独自スクープとして「大阪府健康医療部の職員が各保健所に対し『府の方針として、高齢者は入院の優先順位を下げざるを得ない』とするメールを送信していた」と報じた。各種メディアが相次いで「トリアージ」「高齢者治療は後回し」「“命の選別“が始まった」などと報道し、大騒ぎになった。

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大阪府健康医療部は取材に対して「府の方針とは全く異なる」としており、各保健所に内容の撤回と、謝罪する旨を連絡した。また吉村洋文大阪府知事も記者会見で、このメールについて事務方同士が行ったものであり、府の方針ではない」と釈明、謝罪する騒ぎになった。

ネット掲示板やSNSなどでは、「若者優先が当然」「現場の本音」「良い機会だから、ごまかさず議論すべき」などの容認論が目立った。一方で、明治大学教授の岡部卓氏は「このような生命の値踏みは、その他の人たちにも波及することが起きてくるとも限らない」徳島文理大教授の八幡和郎氏は「(イタリアのような状況でなければ)生命の危険が大きい高齢者の治療を優先すべき」など高齢者の論客には反発する意見も目立ったし、ネットに書き込まないだけで怒りや不安を覚えた高齢者も少なくないと推察される。

個人差が大きい“高齢者“のイメージ

「高齢者延命の是非」のような議論をする前に、そもそも対象とする“高齢者”の定義を統一する必要がある。ちなみに、WHOは「65才以上」と定義しており、厚労省は更に「65-74才を前期高齢者、75才以上を後期高齢者」と分類しているが、日本老年医学会は「75才以上に変更すべき」と提言している。

また、「社会への負荷」という観点からは以下のようにも分類できる

  1. 現役高齢者:職業を持ち納税している高齢者
  2. 自立高齢者:無職だが生活そのものは自立し、介護不要の高齢者
  3. 要介護高齢者:生存するには介護が必要な高齢者

であり、岡部氏や八幡氏、また2020年にコロナで死去した志村けん氏(享年70才)はA群に含まれる。志村けん氏はコロナ専門病院で人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)など高額医療機器を装着されており「70代にECMOはやりすぎ」と、コロナ用ICU病床がわずかだった2020年当時では一部で問題視されていたが、個人的には彼のような高額所得者(=高額納税者)は社会貢献が大きくECMOを装着されても当然だと考えている。

メール発信者が想定していたのは要介護高齢者

問題のメールを詳しく見ると「高齢者施設に入所の方でDNAR(蘇生措置拒否)の方につきましては、看取りも含めて対応を御検討いただきたいです」ともあり、発信者が想定していたのは、上記分類のうちのC群の要介護高齢者だったと推察できる。

また、札幌市のデータ(2020年11月8日~2021年1月21日)では、コロナ死亡者のうち「76%が病院/介護施設の入所者」「45%が寝たきり」と集計されている。まあ、介護施設内にコロナ陽性者が居住していれば、脆弱な要介護高齢者集団はクラスター発生のリスクが高く、施設責任者は「一刻も早く施設外に出したい」と願うのは当然だろうし、中にはマスコミにリークして「“命の選別”を許すな!」的な主張をする者が出現するかもしれない。

しかしながら「老木は植え替えるな」の諺があるように、要介護高齢者(多くは認知症)は居宅が変わると、それだけで体調や認知症を悪化させる。自分が感染症で隔離入院されていることを理解できず、点滴を引き抜いたり、夜中に徘徊したり、それを抑制する看護師を殴ることもある。現役世代の数倍のマンパワーが必要になるが、保険点数は変わらない。人工呼吸器を装着すれば、一命は取り留めても植物状態のままで長期間病院ベッドをふさぐ可能性が高く…現にコロナ専門病院では「コロナ肺炎は治った要介護高齢者」の転院先調整に悩まされている施設が多い。そういった背景を知るが故のメール発信だったのだろう。

現役~自立高齢者は、今のところ入院制限対象外

というわけで、岡部氏や八幡氏のような現役高齢者、読売新聞を読んで理解できるような自立高齢者は、今のところ入院制限の対象外である。なんだかんだ言って、日本の医療システムは高齢者に甘い。また、政治家が高齢者を敵に回すと何もできなくなることは、吉村府知事も2度の大阪都構想否決で思い知らされたはずだ。

とはいえ、コロナ入院よりも罹患しないステイホームの方がはるかにマシなので、地道に手洗い・マスク・三密回避で自衛してゆきたい。