ワクチンの効果はコロナ感染収束にどのように現れるか

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載32)

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単純な陽性者数(縦軸)と接種率(横軸)の相関グラフは、誤解を招く恐れがあり、ワクチン接種の効果を陽性者数の動向の中に見出すには、まず、これまでの新規陽性者数の動向を把握する必要があります。

結論から述べますと、ワクチン接種率の増大は、陽性者の減少に比例的に(線形的に)現れるのではなく、ピークアウトを起因することによって、相転移的な(非線形的な)変化として現れるということです。

図1は、世界の新規陽性者の推移です。赤線で示しましたが、3月8日を境に感染の新しい波が立ち上がり大きく拡大しました。現在、ピークアウトの兆候が見え始めています。

この波が、全世界的に同期した変異株の感染拡大によるものであろうというのが、連載29の結論でした。また、後で触れますが、多くの国のワクチン接種の拡大時期が、この時期に重なっているので効果検証には注意が必要です。

最近、感染爆発の様子が報道されているインドも、この波によるものです。前回の連載31で報告したように、インドの昨年の推移は大国の特徴で、鋭いピークが現れるのでなく、幅広のひと山として現れていました。しかし、今年の3月からは急激なピークとして変異株の感染が拡大しました。

この変異株が、アジアや日本の優位性、所謂「ファクターX」を打ち破っているのではないか、という論についても、現況でピークアウトすれば、「ファクターX」は破られたことにはならないと結論しました。

その後、前回の記事から数日を経て、図2で示すように、実際にインドにピークアウトの兆候が現れました。もし、このまま下降するとすれば、1月のイギリスの変異株の急速な収束のように、図2の予測線に沿って急激に下降すると思われます。

さて日本です。今回、インド、トルコ、モンゴルを加えて、連載で解析している14カ国中、3月からの感染拡大に、ピークアウトの兆候が見えないのが、インドと日本でした。インドにピークアウトの兆候が見えた現在、残るは日本だけです。

図3が日本の新規陽性者の推移です。青の実線の予測線は、4月22日にピークアウト(感染日ベース)を仮定したものです。現在(5月4日)の陽性者数のデータの動きは、連休の影響もあるのか、ピークアウトするのか、もう少し上昇するのか判断しかねる動きをしています。

青の破線の予測線は、5月25日にピークアウトを仮定したものです。ここまで上昇することはないと思いますが、ひとつの極端な例として示しました。少なくとも、これからの現実は、青の実線と破線の間に入るはずです。

解析している14カ国の内、オーストラリアとモンゴルを除く12カ国の新規陽性者の動向とワクチンの接種率を比較します。オーストラリアは、鎖国状態の特殊な環境なので、また、モンゴルは規模が小さすぎるので省きました。

図4は、各国の新規感染者数を、今回の感染拡大の始まった3月8日で規格化して表示しています。実際には、各国の3月8日の新規感染者数を、日本の3月8日の陽性者数と同じになるように、図中の係数を掛けています。また、図4の右側に、各国の現在のワクチン接種率(赤色)を示しています。括弧内は、3月8日時点でのワクチン接種率です。

縦軸は対数表示ですので、陽性者数の絶対値は国間で2桁も違いがありますが、3月8日からの陽性者の動向、即ち変化率は絶対値に関係なく比べることができます。

グレーの部分が3月8日から現在までの期間です。現在から先は予測線です。日本の場合、図3で示したように、まだピークアウトがはっきりしないので、青の実線と青の破線で2つのピークアウトの場合を示していますが、現実はその間に来るはずです。

3月8日の時点で、ワクチン接種率の高いイスラエル(57%)、イギリス(30%)は、その後、一気に下降しています。

この3月8日からのグレーの期間は、多くの国でワクチン接種の拡大時期とも重なり、ワクチン接種から感染拡大が引き起こされたという説が提唱されましたが、そもそも3月8日時点で接種率の高かったイスラエル、イギリスの動向が、その反証になります。

米国(3月8日時点で18%)と、ドイツ、ベルギー、フランス、スウェーデン、スペインのヨーロッパ諸国(各国とも6%前後)は、少し上昇し、その後、接種率の上昇と共にピークアウトし、現在下降しています。

トルコは、3月8日時点で接種率9%、ヨーロッパより強く上昇しましたが、4月中旬にピークアウトしています。ブラジルは3月8日時点で、まだ接種が始まっておらず、感染が拡大し、その後、急速に接種が進み、4月初旬にはピークアウトしました。現在接種率は13.8%です。

インドは、3月8日時点で接種率1.4%、報じられているように、その後の感染爆発が起こり、現在やっとピークアウトの兆候が見えてきたところです。しかしながら、現在の接種率はまだ9.2%です。

日本は3月8日時点で接種率1%未満、現在も2%弱です。日本がこのままピークアウトしても、ワクチンの効果とは言えない状況ですが、インドも同様です。その場合は、「ファクターX」が寄与している可能性もあり得ると思います。

図4では、3月8日からの各国の陽性者の動向と、その国のワクチン接種率には強い相関があります。具体的には、ワクチンの接種率に応じて、拡大を示していた新規陽性者のピークアウトの時期に影響し、その後減少に転じていることが分ります。これはワクチンの接種率が、「ピークアウトの時期」に決定的な影響を与えていることを示しています。

ワクチン接種率の増大が、陽性者の減少に比例的に(線形的に)現れるのではなく、ピークアウトを起因することによって、相転移的な(非線形的な)変化として現れるのです。