リモワ社員の働きぶり監視システムが次々生まれる狂気

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

テレワーク推進を機に、「管理」ではなく「監視」を強める狂気的なシステムが次々と生み出されている。

  • 社員の居眠りを検知して、冷気で起こすエアコン。
  • 圧力センサーで、着席をチェックする椅子。
  • ランダムにPC画面を撮影して、上司に送信するシステム。

そして先日、NHKで取り上げられたテレワーク 働きぶりの“見える化” 導入広がる 新型コロナでは、テレワーク中の社員がサボっていないかを監視するための新たなシステムが取り上げられ、SNSなどで大きな反響を呼んでいる。その多くが批判的なものだ。

metamorworks/iStock

このような愚かなシステムが生まれる限り、日本企業の労働生産性の向上は望むべくもない。本稿ではこうした監視システムの問題点を指摘するとともに、成果を評価する意識改革の必要性を主張したい。

「相互監視文化」が生み出す狂気

中国は国家が人民を監視している。その一方、我が国は人民同士が相互監視し合っているという印象だ。これは文化的な側面から来ているだろう。

2020年から感染者を見つけると、バッシングをしたり、屋外でマスクをしない人間を見つけて、叱りつけるマスク警察など様々な同調圧力や、相互監視から端を発する混乱が見られた。そしてここへ来て、リモートワークで働く社員を監視するシステムが誕生したというのだ。相互監視文化を具現化したようなシロモノに思える。

このシステムが大きく批判を浴びている理由は、まさしく「誰も得をしない徹底的に非生産的」な点にある。働く社員としては、オフィスで働く以上に監視体制を強められれば、モチベーションの低下は避けられない。経営者の立場からすれば、社員が勤務時間中に椅子に座っているとか、働きぶりはどうでもよい。最大の関心事は利潤につながる成果が出ているかどうかにあるだろう。部下をマネジメントする上司も、部下の仕事の「管理」が本業であり、「監視」に高単価なマンパワーを消費させられることは本望ではないはずだ。

我が国は人口減少や少子高齢化の渦中にありながら、先進諸国と比較して労働生産性が低いことが課題となっている。このような監視システムが導入されることで、システムを販売する企業以外は得をするものは誰もいないのである。だが、その逆はあり得る。すなわち、このようなシステムがはびこれば、我が国のビジネスの効率性はさらなる低下が懸念されるだろう。

相手の一挙手一投足を過干渉にチェックし、部下をダメにしてしまうことを「マイクロマネジメント」と呼ぶ。今回のシステムは「典型的なダメな例」として、教科書に載せるべきマイクロマネジメントの事例ではないだろうか。

プロセス評価ではなく、成果評価を

これまでリモートワーク未経験の一部の企業にとっては、半ば強制的に導入を余儀なくされた。働き方が変わったなら、必然的に評価も変えなければいけない。だが、多くの企業において意識や評価が時代の変化に追いついていない印象だ。リモートワークにおいて、働きぶりの監視は不要であり、真に評価すべきは「成果物」なのだ。

このような主張をすると、必ずといっていいほど「成果物にフォーカスしすぎることで、仕事の要領が悪い人間や、仕事を断れない人間が長時間労働することになってしまい、企業がブラック化する」といった批判が出てくる。だが、知的労働においてはまさしく「仕事の要領や効率性の良し悪し」という成果を評価をするべきで、能力の高い人材には相応の高い評価を与えるべきだ。また、長時間労働の是正については、課題の切り分けが必要で、これは別の議論で解消をはかるべきだろう。

皮肉なことに「働きぶり」を監視するような企業からは、優秀な人材は流出していくだろう。優秀な人材ほど、自分の評価を「成果」で正当に判断してもらいたいと考えるからである。「真剣な表情で椅子に座ってPCを操作する時間の長さ」や「会社への忠誠心」といった主観的・抽象的な評価がくだされてしまう会社や上司の元では、働きたいとは思わないはずだ。

時代の変化に意識が追いついていない

リモートワークになれば、これまで可視化されなかった「必要のない社員」が見える化してしまう。皮肉なことに今回の監視システムは、そんな必要のない社員にとっては最後の拠り所になるだろう。「働きぶり」が評価されるなら、会社への忠誠心などで存在意義を示すことができるからだ。

リモートワークなど、働き方の改革や時代は起こっている。だが、意識の改革はその変化に追いついていない。今こそ、意識を切り替える時が来ている。

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