アメリカで新型コロナが落ち着いてきた一方、最近ではインドで感染爆発が起きています。インドの感染者は連日40万人にも達し、直近の死者も4000人以上を記録するなど、極めて深刻な事態となっています。
この理由について、多くの人が指摘しているのは、感染力が強いとされる「インド株」(B.1.167)が影響している可能性です。
ただ、インド株が原因だとすると、相当奇妙なことが起きたことになります。なぜなら、この変異株自体は以前から存在していたのに、突如として3月から急増が始まり、その後に感染が爆発したからです。
具体的に説明しましょう。
インドで状況が最も深刻なのはマハラシュトラ州です。下の図はこの州の変異株の割合です。
見たとおりで、この州のインド株(紫)は、昨年から増減を繰り返していたことがわかります。それが、なぜか3月から急増し、4月以降はほぼ100%を占めるようになりました。つまり、マハラシュトラ州の感染爆発はこの株が激増したためなのです。これはインド全体でも同じです。以前のように、複数種が併存していたのとは対照的な状況と言えます。
では、3月に環境が激変したのでしょうか。しかし、誰もそんな話はしていません。強いて挙げれば、2月25日から一般市民向けのワクチン接種が始まったぐらいです。
不思議なことに、インドのようなBCG接種国では、同じような現象が多発しています。ワクチン接種開始直後に特定の変異種が急増し、その後に感染が急拡大するのです。
日本もまさに同じ状況です。
東京の状況を見てみましょう。
ワクチン接種開始直後の3月から、なぜか「英国株」(N501Y)だけが急増し、それに連動して感染者が増加しているのです。これは、大阪でも京都でも同じです。
南米のブラジルではどうでしょうか。
昨年10月からワクチンの治験、今年1月からは接種がスタートしたのですが、その頃から「ブラジル株」(P.1)の割合が急増し、この影響で感染者が増加していることがわかります。
実は、程度の差はあるのですが、欧米でも同じような現象が起きています。ワクチン接種開始後に、特定の変異株だけが急増しているのです。
アメリカの例を見てみましょう。ワクチン接種は昨年末からコンスタントに進められているのですが、なぜか「英国株」(B.1.1.7=N501Y)だけが増え続けているのです。
ヨーロッパはどうでしょう。ここでも、年末のワクチン接種開始直後に英国株が急増しています。
変異株の種類はあまり地域とは関係ないようで、同じ種類のワクチンを使っている国では、なぜか同じ種類の変異株が増えています。
たとえば以下のようにです。
- 日米欧=ファイザー(BNT162b2)→英国株
- ブラジル・チリ=中国シノバック(Coronavac)→ブラジル株
- インド=インドセラム(Covishield)→インド株
しかし、インドの隣国バングラデシュでは、インド株ではなく南アフリカ株が多いのです。また、ブラジルの隣国ベネズエラでは英国株が多いようです。
このように、ワクチン接種開始、感染の増加、そして変異株の種類には、統計的に密接な相関が見られます。
これらの奇妙な現象は、単なる偶然によるものなのか、あるいは何か疫学的な理由があるのか…今後の研究に期待しているところです。
最後に、少し気がかりな点について書いておきましょう。
以前は、アジアのBCG接種国の感染率が低い一因として、「ファクターX」が想定されていました。しかし、池田信夫氏も述べているように、インドは既に欧米のBCG非接種国と同レベルとなり、日本など多くの国でも急カーブを描いて上昇中です。
ひょっとして、環境が変わりつつあるのかもしれません。何らかの理由で、ファクターXが無効化されつつあるのでしょうか。今後の状況を注視したいと思います。