経団連の影響力

岡本 裕明

今日の日本で最もかじ取りが難しいビジネス組織を上げよ、と言われたら私なら企業編では東京電力、団体編では日本経済団体連合会だろうと思っています。

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その東京電力には6月に三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏が会長に就くと発表しました。小林氏も剛腕型ですが、東電の経営とは普通の会社が普通に事業を展開するのとは全く違い、利害関係の塊のような組織で原発事故後、会社トップは頭を下げ続ける人というイメージしかないと思います。様々ないきさつがあり、東電は今の東電の体を保っているのですが、企業としての改革と成長性を求めるなら健全部分と清算事業に分けるのがやはり正解だったと思います。電気が来ればそれでいい、と思っている節があるのですが、そんなことではSDG’sには程遠くなります。

では経団連です。今回、現会長で日立出身の中西宏明氏が体調の悪化で職務を全うできず、入退院を繰り返していることから任期途中で退任、後任に住友化学出身の十倉雅和氏を会長に推挙するというニュースが聞こえてきました。日本で最も難しい組織のかじ取りを化学会社の三菱、住友のトップがそれぞれ担うというのも何かの因縁でしょうか?両社の対外活動という意味では住友化学が経団連に対して三菱ケミカル小林氏は経済同友会でかつて副代表幹事を歴任しています。

経団連における住友化学出身者と言えば米倉弘昌氏が2010年から14年まで会長をしていた際の安倍元首相との確執はあまりにも有名であり、二人の息が酷いほど合わないため、安倍氏が「経団連外し」を露骨に行ったことも有名です。私もあの頃の一連の報道はよく覚えていますが、あれは安倍氏も米倉氏もどっちもどっちだった気がします。

換言すれば、安倍元首相も意識しざるを得ないほど経団連にチカラがあるということで、一応「財界総本山」であり、その会長は「財界の総理」と呼ばれるほどであります。総理と言われるのですから当然、閣僚と官僚もいるわけで副会長が18名ほどと事務総長と専務理事、更にユニークなのは審議員会があり議長以下副議長が21名います。今回、会長になる十倉氏はこの審議員会副議長の一人でありました。経団連の官僚とは「民僚」と揶揄される事務方でこれが経団連運営の頭痛の種ともされます。ちなみにこれだけの幹部組織に女性はたった2人です。

とにかく何とも言えないほどの巨大な船頭ばかりの組織でありますが、その大半は会長職ないし顧問、相談役といった高齢者であり、現役社長で幹部に入っている人は数名であります。

こうなると私から言わせれば「日本経済団体連合ベテランズ クラブ」の方がすっきりするのではないかと思います。一般の方はあまり縁がない話かもしれませんが、日本において社長は社内をまとめ、社業にまい進する最高指導者であります。一方、会長職はいざという時の社長の後見人と併せ、業界団体や社外活動を中心に行い、それまでに築いてきた人脈や功績をベースに自社のビジネスがよりよく展開する役目といった感じでしょうか?もっと平たく言えば社業にまい進してくれたことへの「最後の華」ということになります。

この経団連、基本は製造業やインフラなど伝統と歴史ある重厚長大型企業が中心であり、サービス業は脇役にもなりません。かつて楽天の三木谷氏が反乱を起こし、脱退したことも話題になりましたが経団連の考え方が三木谷氏と相いれず、氏は脱退後に「新経済連盟」を作り上げネット系企業を中心に400社弱が会員として活動しています。

今回、なぜ住友化学出身者がここで再び選任されるのでしょうか?うがった見方かもしれませんが、経団連組織にサル山の大将が多すぎて纏められず、素材産業で目立たず縁の下の力持ち的な企業が消去法で選ばれたような気がします。強いリーダーシップと言った話ではなく、幹部企業間の政治問題に対する調整の産物だったのではないでしょうか?

いみじくも日経の社説には「十倉経団連は企業の針路示せ」とあります。企業の進路というより日本経済の行方を明白に示せないならば私が冒頭に申し上げた日本で最もかじ取りが難しい企業組織でしかない存在になりかねないのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月11日の記事より転載させていただきました。