五輪批判ばかりで自己主張は欠く朝日、毎日新聞

開催中止をとまでか書かない

最新のNHKの世論調査では、菅政権の支持率は35%まで下がり、不支持率は43%に上がり、不支持率が支持率を上回りました。読売の調査でも、支持率が43%、不支持率が46%で逆転しています。

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3月の支持率が9㌽も上昇(2月比、読売)した時、菅首相は上機嫌で「官邸執務室に入るや否や、『ほらみろ。こんな難しい時期に俺以外の誰も総理大臣を務められないということにみんながようやく気付いたんだ』と、こう言い放った」(月刊文春)そうです。

「しかも自らぱちぱちと拍手しながら・・。はしゃぐ最高指導者の姿に秘書官たちは複雑な表情を浮かべた」と、記事は続けました。世論調査の数字に一喜一憂しすぎる軽量級首相への皮肉です。

コロナ対策の右往左往、ワクチン接種の遅れに加え、最近では、東京五輪をコロナ禍で強行開催しようとしている政権への不満が、支持率の低下をもたらしているのでしょう。

開催を断念すれば、菅首相は政治的な決断力があるとして、支持率が上がるはずだと思うのに、そこまでは考えが及ばない。

五輪ついては「中止49%、無観客開催23%」(NHK)、「中止59%、無観客開催23%」(読売)で、国民の大半が開催に反対しています。五輪招致の条件の一つが世論の高い支持率であったことは過去の話になりました。

コロナ禍で開かれた昨年秋の新聞大会は、読者から募集した新聞週間標語の当選作に「危機のとき確かな情報、頼れる新聞」を選びました。それを自らに課そうとしたのです。

コロナ危機との絡みで、多くの国民、さらに海外の関心が異常に高まっている五輪開催の是非について、新聞は「危機のとき確かな情報、頼れる新聞」の役割を果たしているのでしょうか。

朝日新聞は「五輪の可否、開催ありきの破綻あらわ」(12日、社説)の見出しで、国会での首相答弁を聞いて、どれだけの人が納得したか。分かったのは、滞りなく大会を開ける状況にないという厳然たる事実だ」と、厳しいい指摘です。

「知りたいのは首相の信念や願望でなく、それを達成する方策、道筋なのに、説明責任を果たしていない」「・・それでもなお大会を開くのか。社説はそれを明らかにするよう求めてきた」(同)。

一方、「マラソン会場になる札幌では、過去最大の感染拡大」「五輪中の選手用病床確保の要請を茨城県知事が拒否」「五輪ホストタウンのうち40自治体が事前合宿を海外選手の受け入れ断念」「高齢者のワクチン接種は、14%の自治体で7月に完了せず」などの報道が溢れています。

それでは、政府、関係者に「社説は・・・求めてきた」のならば、朝日新聞として、大会開催の可否をどう考えるのか。首相にばかり説明責任を求めるのでなく、自らはどう考えているのか表明する必要がある。

自らは「高見の見物」なのでしょうか。テレビは公共の電波であるから、テレビ局としての主張はしにくい。ネット情報、論壇は玉石混交で取捨選択が難しい。こういう時こそ、新聞の出番なのです。

「破綻あらわ」と書いておきながら、朝日新聞として「中止要求」まで踏み込まない。「中止要求」をした場合、五輪の協賛企業(オフィシャル・パートナー)契約も解除しないとつじつまがあわない。そうすると、多額の広告収入の放棄に迫られる。

「経営と編集の分離論はあり得るから、言論機関としては中止を要求、経営体としては五輪開催」という説明では社会が納得しない。

毎日新聞は「東京五輪と首相答弁、国民の不安が募るばかりだ」(同)の見出しで「予定通り開催できるのか。菅首相から納得のいく説明は聞かれなかった」と、朝日新聞と同様に厳しく批判しています。

「選手らにPCR検査を毎日実施し、大会関係者にも定期的に行うと、国民の検査にも影響する」「首相は人々の不安に正面から向き合わねばならない」とも、指摘しています。

そこまで書くなら、では毎日新聞は「人々の不安」にどう向き合うのか。「五輪中止」をとまでは、朝日同様に踏み込まない。

東京五輪の主催者はだれかについて触れおきますと、「主催者はIOC、JOC、東京都と、首相は責任逃れの発言」(朝日)と指摘しています。規定では首相の言い分が正しいとも言えます。

でも、実態は違う。森前JOC会長の辞任、橋本会長の選任などは、実質的に菅政権が決めました。また「開催の1年延期決定は、安倍前首相が主導した」(毎日)は正しく、開催の可否の決定権は首相が握っているのです。

朝日、毎日と対照的なのは、読売と産経です。読売は「開催中止を求める声が上がっている。だからといって、五輪開催の賛否に選手を巻き込むのは筋違いだ」(同)の社説を書きました。

選手が自主的に賛否を表明するのは自由ででも、「代表に内定した池江選手は大会の象徴的な存在となっている。だからといって、池江選手を中傷するのは許されない」(読売)に異論がありますまい。

違和感を感じるのは「中止を求めるなら、政府は東京都に対して声をあげるべきである」の指摘です。では、読売新聞はどう考えるのかを明らかにしていません。世論とは逆に開催賛成なら、理由を書くべきです。

産経の「五輪にワクチンの無償提供を歓迎したい」にも、同様の問題があります。「首相は開催の意義を丁寧に説明してほしい」と要求するのではなく、産経の方針を「丁寧に説明」するのが言論機関の役割です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。