中野区構造改革を例に
コロナによる財政悪化は国のみならず、自治体の運営にも黒い影を落としている。
以前、中野区のリーマンショックの影響の事例から、コロナによる今後数年の財政的な憂いについて、アゴラに掲載させていただいた。
コロナ直撃、自治体の懐事情(上)中野区を例にリーマンショックから占う
コロナ直撃、自治体の懐事情(下)中野区はショックをどう吸収すべきか
上述の記事で令和2年夏季に国が出した経済指標を基に算出した中野区財政はかなり厳しく、5年間で215億円程度の減収の見込みであった。
その後、令和3年3月12日に今後の中野区の方向性を指し示す中野区基本計画(素案)が議会で報告された。
国の財政見通しや税制改正の影響等を参考にした結果、リーマンショックを上回りなかなか税収が復活しない、さらに厳しい財政予測となった。
この図面を基に令和2年度を基準とした区の一般財源の減収分を算出すると以下のような図となる。令和2年度を基準としての一般財源の減収分は10年間で457億円となった。非常に単純な算出方法ではあるが、この金額を基準として以後、論じさせていただく。いずれにせよ、一時的にしのげるような規模の金額ではない予測となった。
中野区は厳しい財政に立ち向かうべく、「行財政の構造改革の推進」することを明言された。
私は中野区が構造改革の検討中であった令和2年10月の段階で、もし構造改革を行うのであれば、下図のようなイメージをもつべきと提案させていただいた。コロナ禍で構造改革を行う理由は間違いなく財政のためであり、構造改革で得られた成果はすべて財政効果として、数値化して積み立てていくことが必須である。
令和3年度から構造改革を行うのであれば、まずは令和3年度の予算からメスを入れていく必要がある。
それが下図で示す①「令和3年度歳出抑制効果」であり、毎年計上している予算も切らざるを得ないため「区長の覚悟」と明記させていただいた。
そして行財政の体制をゼロから見直しすることで無駄を省く、②「行財政の構造改革」は職員の努力が必要であり、効果が出るには時間がかかるため右肩上がりのイメージとなる。
このイメージの重要性を説いたことが中野区に伝わったのか、関係者と感覚は共有できたと考える。
そしてまだ構造改革の全容は見えないが徐々にその改革の方針が見えてきた。
①「令和3年度歳出抑制効果」
これに該当する事項は、令和2年12月に様々な媒体で公表された(2020年12月20日なかの区報,pp.8)。検討中の主な見直し事業は以下の18事業となり、議会での報告で全部71事業が見直しの対象となった。
【検討中の主な見直し事業】
- 区報発行回数の見直し
- 「なかの生活ガイド」の作成
- シティプロモーション事業助成
- 友好都市・諸外国との交流
- なかのまちめぐり博覧会
- なかの生涯学習大学の再編
- 保育士宿舎借上げ支援事業
- 民間保育施設ICT化推進事業補助、安全対策強化事業補助
- 定期利用保育事業
- 海での体験事業
- 妊娠・出産支援事業
- 中高生ライフデザイン応援事業・中高生活動発信応援助成
- 地域健康づくりの見直し
- 温水プール開放事業の休止
- 犬の飼い方教室、猫の飼い方教室の休止
- なかのエコポイント
- リサイクル展示室運営
- 花と緑の祭典事業
71事業の見直しによる削減合計額は約5.5億円である。
しかし学校施設、区有施設整備、つまり建替えの延期などの一つの施設で数十億円かかる事業に関しては延伸するということで、算定に含まれてはいない。
老朽化が著しい、また狭小な小学校の整備を当面ストップする事態となっている。
これまでメスが全く入っていなかった事業もあり、評価するところもあるが、ほとんどはコロナによる開催中止・延期、施設改築スケジュール上の事業休止などであり、状況が変われば復活する可能性がある事業も多く、区長の覚悟とはいえないものであった。
それもそのはず、中野区の行政改革課長だった前区長が、削りに削った予算が今の中野区の財政の根幹であると認識である。
つまり上図の「令和3年度歳出抑制効果」は大きくて年間5.5億円で、10年間で55億円となる。457億円の予算不足を補うためには必要であるがこれ以上の経常経費の削減は無謀な挑戦といえる。
そのため、中長期的な「行財政の構造改革」に期待するしかなくなった。
②「行財政の構造改革」
そして、5月13日、中野区議会において、行財政の構造改革の実行プログラムの概要が示された。
結果的に区から出された実行プログラムの期間は3年間とされたが、概念は変わらないだろう。
3年というのは中野区の新庁舎が3年後に完成するためにそれまでに間に合わせるという意味合いが大きい。
しかし「令和3年度歳出抑制効果」がゼロに等しい上に、5年と考えられていた期間が3年となり、実現がさらに厳しいものとなった。
上記内容を踏まえると下図のようにイメージが変わったといえる。
10年間で457億円の減収予測、中野区の現状の貯金240億円、年間の予算縮小5.5億円が10年間継続、構造改革の成果は恒久的に続くと仮定する。
トータル的に貯金を全く切り崩さずに乗り切るとすれば、構造改革により年間47.3億円の財政効果を見込む必要がある。
貯金をすべて使い切る前提であれば、最低でも19.3億円の財政効果を生む構造改革が必要となる。
小中学校の建て替えを全くしなければ、できなくはないだろうが、老朽化が激しく無策に延期するだけでは許されないものであり、目標額の達成は非常に厳しいものである。
そして行財政の構造改革の柱としては以下のようなものである。
- 戦略Ⅰ デジタルシフトによる区民サービスの向上と効率的な行政運営
- 戦略Ⅱ 公助の体制強化と共助の促進
- 戦略Ⅲ 施設のあり方検討と適正な配置・管理
- 戦略Ⅳ 組織体制の最適化
- 戦略Ⅴ 安定的な財政運営と財源創出
現実的に数十億の財政効果を生み出すためにはデジタルシフトと区立直営の施設を減らし、人件費を圧縮するなど抜本的な変革が求められるが、今のところ何をするのか具体的な答えは出てきていない。
どの自治体も運営が困難な時代であるが、まずはコロナに係る医療体制の強化、経済対策をしっかりとしていただき、未来に希望溢れる区政運営に努めていただきたい。