17日から東京と大阪で始まった自衛隊大規模接種センターの新型コロナワクチン接種予約システムについて、朝日新聞出版の「AERA.dot」と毎日新聞が防衛省の予約システムの不備を指摘たことが物議を醸している。余り話題に上らないが日経Xtechも同様の報道をしているようだ。
AERAは17日17:03に「誰でも何度でも予約可能(略)予約システムに重大欠陥」の見出しで、毎日も17日18:47に「大規模接種ウェブ予約 架空の数字で登録可(略)」の見出しで配信した。両社とも予約が開始されるや「待ってました」とばかりチェックしたようだ。
この報道に岸防衛相は18日、両社の記者が「不正な手段により予約を実施した行為」は「極めて悪質」で「厳重に抗議する」とツイートした。岸氏はまた、個人情報の把握について「実施まで短期間等の観点から困難かつ・・防衛省が把握することは適切でないと判断した」とし、「ご指摘の点は真摯に受け止め・・対応可能な範囲で改修を検討」すると述べた。
この問題では安倍前総理も、AERAと毎日を「極めて悪質な妨害愉快犯」とツイートするなど、防衛省擁護派はAERAと毎日の取材手法を、資格のない者による「不正行為」であり「不正アクセス禁止法」などに当たるなどとし、模倣犯やいたずらを誘発し接種に支障をきたしかねないと批判する。
一方のAERAと毎日は、システムの脆弱性を指摘することには「高い公益性」があるとし、AERAは「事前に防衛省に見解を求めたが明確な回答がえられ」なかったと防衛省の対応不備にも触れる。毎日は「防衛省に取材を進めるとともに」とするが、その結果について書いていない。また、当たり前だが両社とも予約は既に取り消したとしている。
これらの報道やネットの議論を受けて、いつものことながら一番大事な視点が欠けていると筆者は感じる。それは「どうやったら最速でワクチン接種者を増やせるか」ということで、ワクチンの特許開放の件とも相通じる。防衛相のツイートの「実施まで短期間・・」辺りでそのことに触れてはいるが、説明不足の憾みは否めない。
それは詰まるところ「善意の有資格者が誤って入力した場合に、当日会場で接種が受けられるかどうか」に掛かっており、受けられるのなら大きな問題にはならない。防衛省の予約サイトを見ると「6.当日の接種センターにおける注意点」の冒頭に「接種券及び本人確認書類が必要です」と書いてある。
重要なのは「接種券番号」や「市区町村コード」が「誤入力された予約券」を持参した場合でも、「本人確認書類(マイナンバーカード、免許証、保険証、パスポート等)」で本人と確認ができれば接種を受け付ける、という臨機応変な対応を現場でとれるよう徹底することだ。そういった対応ができるかどうかの説明こそ、政府にも報道にも求めたい。
このシステムの対象は東京会場なら「東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県に居住していて、地方自治体から送付された接種券を持っている65歳以上の者」だ。総じてITに強いとは思われない65歳以上の者(代理の場合もあろうけれど)が入力する場合、何桁もの数字を正確に入力し切れないことも多かろう。
不完全なシステムかも知れぬが、「迅速な接種」を眼目にする以上、「誤入力でも予約できる」方が「誤入力すると予約できない」よりは断然役に立つ。何度やり直してもはじかれるよりは、一つや二つ間違えても予約できる方がよほどましだ。つまり、予約の手段に過ぎないのだから「会場で本人確認ができれば接種する」仕組みこそが肝心だ。
AERAも毎日も「高い公益性」を言うなら、「(システムの)事業会社の顧問に竹中平蔵さんが名を連ねていながらこの始末です」などというAERAの防衛関係者の話は不要だし、毎日の「架空の数字を使って予約枠を『占拠』することもできる」という表現も穏当を欠く。普通は「誤入力」するのであって、「架空の入力」は「不正」か「愉快犯」だ。こういう記事の書き様からは真面目な印象を受けない。
例えば政府や防衛省に確認を取った上で、「誤入力しても予約ができてしまうが、その場合でも、当日会場で本人確認ができれば接種を受けられます」、「意図して架空入力すると、場合によっては罪に問われます」といった建設的な報道ならば「高い公益性」もあるだろう。