中国とどう向き合うか

中国が火星に無人探査機を着陸させ、その探査車が活動を始めます。つい3か月前、アメリカが史上初の火星着陸を成功させたという記事を見たばかりです。米中の先端技術力はネックトゥネック(わずかな差)であることを見せつけました。かつての米ソの宇宙開発競争と同じようなシーンだと思っている方もいるでしょう。(あの時、アメリカはソ連の後塵を拝しました。)

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テスラが中国で生産を開始したのは大量生産によるコストダウンを一番たやすく到達できるからだと考えたのでしょうか。テスラに限らず多くの日欧米の製造会社はそう考え、中国に進出しています。しかし、中国の考え方は技術を学んだら(=盗んだら)あとは自前でやるからいらない、という方針は過去、一度も崩れたことはありません。新日鉄の上海、宝山鋼鉄支援の話は好例だし、川崎重工の中国新幹線問題もありました。

テスラがそれに気が付き始めたのは最近だろうと思います。このまま中国への傾注を進めてよいのだろうか、と。上海の工場増設を凍結したのもさまざまな理由があると思いますが、一つには中国のテスラへの冷たい仕打ちがあります。テスラで事故にあったニュースを延々と流し続け、中国が得意とする洗脳効果は漢方薬のようにじわっと効いてきます。中国テスラは欧州向けの他、日本にも積極的に売り込んでおり、中国テスラの日本での売り上げが一気に9倍になった(20年1-3月比で96台が879台になっただけで、台数は知れています)と報じられていますが、中国国内向けへのシフトに苦戦しているように見えます。

そもそも中国ではEVメーカーは群雄割拠の状態ですが、50万円を切る宏光ミニEVの躍進にみられるように生活の足代わりとしてのEV需要が爆発しており、その間にインフラが拡充されるという大成長期にあります。テスラは高級EVとしてシェアを取れるのか、厳しい立ち位置にあるように見えます。(アメ車が日本で売れなかったことを思い出してください。自前主義はいつでもあるのです。)

中国とどう向き合うか、様々な見方があるし、トランプ氏の生み出した米中対立軸をバイデン氏がどう展開するのか、時間が経ち、戦略に異論も持ち上がってきています。

マレーシアのマハティール元首相は「徐々に中国との摩擦を緩和し、対話を進めることができるのではないか」と述べ、「(日米豪印の)クアッドは『古い戦略だ』として、各国が個別の外交によって中国に対応する方が望ましいとの考えを示した」(日経)とあります。

また、イアンブレマー氏は日経に「中国との『競争的共存』目指す米国」と題した寄稿をしています。「短期的には両国は追加関税や経済制裁の応酬を続けるがバイデン政権は幸いにも実務的である。アメリカの中国に対する厳しい姿勢に対し諸外国からの様々な意見にアメリカは敏感で、各国にこうした苦渋の決断を迫った場合の限界も分かっている。そこで、資本主義の原点である競争に立ち戻ろうとしている」(筆者超要約)と述べています。

この二人の意見を見る限りは厳しい敵対関係から少し戦略変更を示唆するように見えます。他方、下院議長のナンシーペロシ氏は北京五輪で外交ボイコットをせよ、を高々と声を上げています。ユニクロの一部商品が新疆ウィグル自治区の綿である可能性からアメリカに輸入できなくなっています。この辺りの個別問題は引き続き出てくるのですが、影響力のある人たちの足並みがそろわないのも事実であります。

日本では経済団体が中国とのビジネス関係を重視していることから政治と経済が対中国の姿勢で温度差やばらつきがみられます。これは別に日本だけではなく、強硬姿勢を貫くオーストラリアでも経済界からは不満の声は上がっているのです。となれば、アメリカがどれだけ政治的に強硬な姿勢を取り続けていたとしても効果がなければアメリカの各産業界からも政策見直しのロビー活動は当然出てきやすくなります。

要はトランプ氏、およびバイデン氏の対中国強硬姿勢は今風に言えば「サステナブルではない」とも言えるわけで個別対応を余儀なくさせられる公算は否定できません。ただ、95歳のマハティール氏が言う日米豪印のクアッドを「古い戦略」だと感じるのは大戦時の三国同盟や戦後処理に関する一部国家主導による解決方針の決定といったイメージをお持ちなのだと思います。今回のクアッドはその当時の考え方とは異にしているはずでそれを古い戦略と言ってしまえば地球上のあらゆる同盟、提携を否定することになってしまいます。これはピントがずれていると感じます。

中国は孔子の時代から中華思想を信じており、天子を中心とした天動説であり、中心から離れるほど野蛮になると考えています。この思想は一種の宗教のようなものでそれを叩きつぶすというのは宗教戦争を仕掛けるぐらいのものになりかねません。よって膨張思想を抑え込むには繁栄を遅らせ、その間に周辺を固め、抑え込む戦略が理論的な考え方のように見えます。

とすれば中国とのデカップリングを進めるべきであり、中国の孤立化政策を取り続け、その間に中国国内の世代交代と世論の変化を洗脳などを通じて促進させるといった手段が適合するはずです。

中国外務省の報道官のコメントを見るたびに反論というより思想的言論に満ち溢れていると思っています。原理主義者の発言の様相すら感じることがあります。膨張を食い止めるには日本も耐え忍ばねばならないことも出てくるでしょう。ビジネスを考えるなら中国の周りにまだまだ市場開拓できる人口が豊富な国々はたくさんあります。確かに中国は経済的に発展してきているので日本としてはおいしいマーケットであることは事実ですが、長い目で見た中国との付き合い方はもう少ししっかり考えるべきでしょう。さもないと今の日本の力ではあっという間に吸い尽くされることになります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月25日の記事より転載させていただきました。