政府・日銀による官製経済化のツケ
高橋洋一・内閣官房参与(嘉悦大教授)が無責任なツイッター投稿を批判され、辞任しました。新型コロナ感染者を各国比較すると、「日本は『さざ波』程度。緊急事態宣言は行動制限が弱い『屁みたいな』もの」などの表現が物議を醸しました。
日本の状況は相対比較すれば、欧米のような大波ではない。それを冷静な言葉で語るのならともかく、医療崩壊に苦しむ地域がある中で、政権の人間が小ばかにしたような言葉を投げつけるのはまずい。
本人は言葉尻をあえて掴ませようとして、投稿したと想像します。高橋氏を擁護する識者もおり、ネット社会はそれがうれしいのでしょう。
この上なく残念だったのは、菅首相の「これ以上迷惑をかけられないということで辞任された」との発言です。本人の意志のせいにしました。首相は「官房参与としては失格。解任した」と語るべきでした。
「日本は後進国になった」をよく聞きます。こんな二流政治、二流人材を使っている政治だから、「後進国」に転落するのでしょう。
高橋氏は安倍内閣の際に、官邸スタッフ(06年)に採用されました。大蔵省では本流ではなく、風変わりな異端官僚でした。
「霞が関には埋蔵金が存在する。政府紙幣の大量発行で景気回復を試みる」「日本の財政再建のためには、大胆な金融緩和で経済を成長させ、税収の自然増を図る」などと主張し、安倍氏の気を引きました。
大蔵省出身の黒田日銀総裁も異端で、「デフレ脱却のため」と称し、安倍氏と二人三脚で、異次元金融緩和と財政拡大の道を突き進みました。デフレ脱却の効果がでないうちに、主要国最悪の財政状態を招きました。
俗受けする政策に誘惑される二流の政治は、経済政策では二流の人物を重用してきました。浜田宏一、本田悦朗氏ら、側用人のような取り巻き官僚の一群もそうです。高橋氏の辞任で、その思いを深くしました。
株式市場では日銀の存在が肥大化し、市場メカニズムが働かない。日銀が株価を下支えし、業績不振の企業も淘汰されない。金利の変動で財政支出を抑えるメカニズムではなく、財政膨張派の二流政治が差配する。
欧米はゼロ金利からの出口に向かう段階に入っているのに、日本は出口の議論さえ封じています。日本は入口で先行したのに、肝心の出口では遅れる。日本はさらに経済二流国に流されていくのでしょう。
最近「日本は後進国に転落したか」といった問いかけがしきりです。死語になったはずの「後進国」との言葉には実感がこもっています。
先進国グループの代名詞である経済協力開発機構(OECD、36か国)に、日本が加盟したのは1964年です。「晴れて先進国の仲間入り」と胸を張りました。それから60年弱で、「後進国」ですか。
「後進国」は今や死語ですから、「先進衰退国」とでも呼びますか。
国民総生産(GDP)は5兆㌦強(19年)で世界第3位につけ、4位のドイツの3.8兆㌦をしのぎ、英仏伊より多く、十分に先進国です。問題は1人当たりGDPでみると、日本は3.8万㌦で25位です。韓国並みです。93年には2位だったことを思うと、ランキングの下落が激しい。
国際比較で実力を図るのは、ドルベースです。対ドル相場は、21年は106円で10年前は79円でした。国内では政府・日銀、経済界は円安歓迎です。喜んでいるうちに、ドルでみた国際的地位はどんどん下がる。
分野別に拾えば、「後進国並み」に相当するデータはいくつもあります。GDP比で見た財政赤字は2.7倍で、財政状態は「後進国並み」です。
孫正義氏は19年に「この数年で日本は発展途上国になってしまった。AI分野では完全な後進国になっている。インドや東南アジアでは次々にAI起業家が生まれている。ここ数年で最も技術革新が進んだ分野で遅れている」と、警告しました。
米国の社会経済学者のジェレミー・リフイン氏は「新しい産業革命」と称して「風力、太陽光発電への転換が進む。日本は遅れている」と、指摘しました。日本は「再生可能エネルギーは供給が不安定で、基幹エネルギーになり得ない」という類の主張がしきりです。
それが技術革新によって「蓄電池に貯蔵することが可能になり、コストも安い」そうです。「洋上風力、気がつけば20年遅れ」(日経、5/24)という特集記事がありました。
「海に囲まれ有望市場であるはずが思考停止で落とし穴に。政府の長期計画がなく、民間はリスクを取れなかった」と、専門家は嘆いています。「英国は北海油田産業を活用し、洋上風力大国になった」と。
コロナ危機の中でどう東京五輪を開催するかといった目先の問題に没頭する二流の政治、二流の人材しか使いこなせない二流の政治です。その転換が進まないと、いくつもの分野で「後進国」に転落していきます。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年5月25 日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。