ワクチン接種下の世界12カ国のコロナ情勢

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載34)

本連載では、「3月8日」という日付に注目してきました。多くの国がこの日を境に陽性者が上昇フェーズに入りました。恐らく、新しい変異株がその感染力の強さで、同時的に蔓延しだしたのだと考えられます。

FrankyDeMeyer

図1は、各国の新規陽性者数を3月8日の日本の陽性者数に規格化した陽性者数の対数表示です。絶対値の比較はできませんが(各国の規格化の係数は図の左下に示してあります)、この図から3月8日からの各国の変化割合の推移を比べることができます。

グレーゾーンが3月8日から現在まで、各国の陽性者の線は計算値で、各国のデータを再現しています。現在から先は、現状を外挿した予測線です。この図は、3月8日からの上昇フェーズが、ワクチン接種率の上昇と共にピークアウトし、現在、解析中のほぼ全ての国が収束に向かっていることを示しています。

3月8日時点で、下降フェーズであった国はイスラエルとイギリスです。その他の国は、3月8日時点で上昇フェーズを示し、その後ピークアウトをしています。図ではピークの位置を▼で(6カ国)、3月8日時点でのワクチン接種率を図の右下に黒い数字、ピーク時の接種率を紫、現在の接種率を赤の数字で示しています。

各国の予測線とデータの比較を見ていきましょう。以下の図では、左が線形、右が対数表示のグラフ、赤線が陽性者数のデータ、青線が死亡者のデータ、黒線が計算の予測値です。

1.イギリス、イスラエル

イギリスは1月1日ピークアウト(発症日ベース)、その時点での接種率はまだ3%、その後、接種率が上がり、3月8日時点で33%です。

従って、イギリスは自律的にピークアウトし、その後の下降フェーズで、ワクチンの効果で加速され、急激な下降を示したものと思われます。ただ、4月に入り陽性者数は横這い状態になっています。イギリス政府は新しい変異株に対して警戒を強めています。この動向は先行事例として注視すべきです。

それでも現在、日毎の新規陽性者が2000人前後、死亡者が10人未満ですから、既に日本の現状を下回っていますし、1月のピーク時で陽性者が6万人出ていた状況を考えると、この収束は特筆ものです。

イスラエルは、1月20日にピークアウトし、その時点で既に接種率が35%です。ワクチン接種が最も早く進んだ国として注目され、実際、現在に至るまで下降まっしぐらです。さすがに5月に入り下降の傾きが緩んできています。ただ、現在、日毎新規陽性者が数十人、死亡者が数人という状況ですから、ある程度の感染者の残存は、ゼロコロナでない限り致し方のないことだと思います。左の図は右の対数の図の昨年12月からの拡大図です。

2.フランス、ベルギー

フランス、ベルギー、ドイツ、スウェーデン、スペイン、アメリカまでの6カ国は、前回の記事で取り上げた6カ国で、3月8日時点で上昇フェーズ、その時点でワクチン接種率がアメリカを除くと一桁台で、その後、接種率が10%を超えるとピークアウトし、同期したように下降フェーズに入った国々です。

フランスとベルギーの共通点は、昨年12月から横這い状態が続き、3月から上昇フェーズに入り、ワクチンの接種率が10%を超えるとピークアウトしました。ピークは比較的小さく、死亡率が特に小さく、今回のピークでは死亡者のピークが形成されないぐらいです。

3.ドイツ、スウェーデン

ドイツは2月の波までは死亡率が高く苦しんでいましたが、今回の3月からの波は、陽性者のピークとしては比較的大きい方ですが、死亡率が極めて低く、死亡者数のグラフでは4月以降のピークとしては見えないくらいです。ドイツは接種率16%でピークアウトしています。

スウェーデンは、陽性者の振舞いはドイツに似て比較的大きく、ピークアウトの後、現在やっと3月初旬の状態まで下降してきました。ただ、絶対値は1桁違いますし、死亡率は当初からドイツに比べ格段に小さいです。また、ドイツと同様に、第4波の死亡者のピークはほとんど見えません。ピークアウト時の接種率11%です。

ドイツもスウェーデンもここ数日、陽性者、死亡者とも急激な減少が見られます。これが実体を伴った変化なのかどうか注目です。ワクチンによる新たな動きかもしれません。

4.スペイン、アメリカ

スペインとアメリカは国の規模も大きく違いますし、陽性者数でも1桁違いますが、3月以降の波が、それまでの波と比べると、比較的小さい状態でピークアウトし、また、死亡率が小さいので、死亡者のピークがほとんど見えないところが共通です。変異株の感染拡大にもかかわらず、ワクチンの接種率と共にピークアウトしました。スペインがピークアウト時で接種率が17%、アメリカが33%です。

5.ブラジル

ブラジルは大国でアメリカと似たところもあり、3月からの上昇がピークアウトしたところまでは共通でしたが、その後、5月に入り横這い、もしくは再上昇を始めました。ここ数日はピークアウトの兆候も見えますから、大国なので、地域的に同じようなことが、時間的にずれて起こっているのかもしれません。いずれにしても、ワクチン接種が進めば、収束するのではないかと期待しています。現在の接種率は20.1%です。

6.トルコ、インド

トルコは、3月8日時点でワクチン接種率が9%、急激な上昇フェーズでしたが、接種率12.9%でピークアウトしています。その後、急激な下降フェーズですが、現在も接種率が19.2%なので、ヨーロッパの国々と、次に示すインドの中間的な振舞です。自律的なピークアウトに少しワクチンの効果が加わった感じです。また、この波で死亡率の低下は見られません。

インドは、3月8日時点でワクチン接種率が1.4%、ピーク時で2.7%ですから、5月のピークアウトは、まだワクチンの効果ではなく、日本と同様、自律的なものです。現在、接種率が11%に達しました。これからワクチンの効果も加味されて、ちょうどイギリスの1月のような急激な下降が期待されます。

7.日本

日本は、3月8日時点でワクチン接種率が0.1%、ピーク時で2.8%ですから、今回のピークアウトは、まだワクチンの効果ではなく、インドと同様、自律的なものです。現在、接種率がまだ5.6%です。現在、急激な下降を示しています。これから更にワクチンの効果も加味されて、イスラエル、イギリスのような急激な下降が期待されます。