① に続いて、シラバス(判決要旨)からフェアユース規定(著作権法第107条)の定める4要素についての最高裁の分析を抄訳する。小見出しは筆者が付し、筆者補足も加えた。
原著作物の性質(第2要素)
原著作物の性質はフェアユースに有利に働く。コピーされたコードの行は、プログラマーが単純なコマンドを使用して、予め書き込まれたコンピューター・コードにアクセス可能にするユーザー・インターフェイスの一部である。このため、コンピューターにタスクの実行を指示する他の多くのコードとは異なるコードである。
インターフェイスの一部としてコピーされた行は、必然的に著作権で保護されないアイディア(APIの全体的構成)と新たな創造的表現(グーグルが独自に書いたコード)が一体になっている。
筆者補足:著作権法で保護されるのは表現であって、アイディアは保護されない。
他の多くのコンピューター・プログラムと異なり、コピーされた行の価値は大部分がAPIシステムを学んだユーザー(ここではコンピューター・プログラマー)の努力によってもたらされる。こうした相違を前提にすると、本件にフェアユースを適用することは、議会がプログラムに付与した著作権の価値を損なうことにはならない。
筆者補足:裁判所はフェアユースの分析をする際に通常、に定める4要素について第1要素から順番に検討するが、本件では第2要素から始めた。4要素の中でも裁判所が最も重視しない第2要素の分析を冒頭に持ってきていることは、上記のような「原著作物の性質」がフェアユースの認定に大きく影響したことを物語っている。
利用の目的および性質(第1要素)
この問は問題の複製が変容的か、つまり、目的を促進したり、性格を変えたりして、何か新しいものを加えているかに大きくかかわってくる。グーグルによるAPIの一部利用は変容的利用である。グーグルはプログラマーがなじみ深いプログラム言語の一部を切り捨てることなく、異なるコンピューティング環境で作業するのに必要なだけ複製した。
グーグルの目的は異なるコンピューティング環境(スマートフォン)における異なるタスク関連システムを創出し、その目的の達成・普及を助けるプラットフォーム(アンドロイド・プラットフォーム)を創出することだった。
証拠によれば、インターフェイスを再実装する無数の手法がコンピューター・プログラムの発展を促進する。したがって、グーグルの目的は著作権そのものの憲法上の目的である創造的進歩と合致している。
利用された部分の量および実質性(第3要素)
グーグルはAPIから宣言コードの11,400行を複製したが、それは286万行ある宣言コードの0.4%にすぎない。グーグルが複製したのは、創造性や美しさからではなく、プログラマーが自分達の技術を新しいスマートフォンのコンピューティング環境に持ち込めるからだった。
本件のように複製した量が有効かつ変容的目的に結びつくようであれば、実質性の要素はフェアユースに有利に働く。
筆者補足:少量でも重要な箇所を複製すればフェアユースに不利になるのが実質性の要素の判定だが、本件のように変容的目的であれば実質性の要素もフェアユースに有利に働くとした。
原著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響(第4要素)
証拠によれば、①グーグルの新スマートフォン・プラットフォームはJava SEの市場を奪うものではない。②SEの著作権保持者はインターフェイスを別の市場に再実装することによって便益を受けることができる。
こうした状況下で、著作権を適用することは公衆に創造性関連の損害をもたらすリスクを伴う。以上から市場への影響についての第4要素もフェアユースに有利に働く。
小括
コンピューター・プログラムは本来機能的であるという事実は、伝統的な著作権の概念をこの技術領域に適用することを困難にする。当裁判所の判例および議会のフェアユース規定の原則を本件のように明確に著作権で保護された作品に適用した結果、当裁判所は以下の結論に達した。グーグルがユーザーの技能を活用して、新しい変容的プログラム開発目的で、ユーザー・インターフェイスを再実装するために、APIを必要部分だけ複製することは原作品のフェアユースに該当する。
筆者補足:4要素は必ず満たさなければならない要件ではなく、要素なので、不利な要素あっても有利な要素の数が上回れば、総合判定でフェアユースが認められるが、今回、最高裁は4要素すべてについてフェアユースに有利と判定した。
次回は判決の日本法への示唆について解説する。
城所岩生