大坂なおみが全仏オープンで義務付けられている記者会見を拒否する姿勢を示し、事実、一回戦勝利後、それを拒否したため、大会主催者側より約165万円の罰金と今後の出場資格停止の警告が発せられました。この行動、賛否両論あるのかもしれませんが、少なくともメディアから聞こえてくるのは大坂なおみに対する厳しい声が多いように見えます。(メディアを敵に回したので当然かもしれませんが。)
私はナダルやジョコビッチ、更に錦織選手らが大坂なおみへの違和感の声を上げる前、つまり、初めて報道を目にした瞬間、大坂なおみは判断を間違えたな、とつぶやいていました。
世間的に騒がれる人、政治家、企業家、スポーツ選手、芸術家、芸能人、宗教家、はたまた宇宙飛行士やノーベル賞受賞者…はプロとしての仕事をし、それが人より秀でてていたり、責任ある地位にいて、その世界で注目を浴びる人となっています。その注目は昨日のインフルエンサーの話ではありませんが、リアルトークでその地位を勝ち取り、その次の道筋を明示、暗示することで多くの啓蒙を提供します。
例えば一国の大統領や首相が会見をしない、あるいは一切のコメントを述べない、更にはぶら下がり会見もないとすれば見事に加工された一字一句、乱れがない味気ない声明が発表されるだけでしょう。これで人々は満足するでしょうか?
企業が決算会見の際、トップがその説明をすることは多いと思います。ウォーレンバフェット氏や孫正義氏が私情を交えた言葉で述べるその会見は世の投資家たちをくぎ付けにするでしょう。大谷翔平や松山英樹がインタビューで述べる言葉はゴシップではなく、野球やゴルフにより興味を持ってもらいたいという点でマーケティングの素養を持っています。野口 聡一さんが宇宙から帰還した時、会見で様々なことを聞きたい、それは宇宙のことだけではなく、野口さんそのものを知ることで宇宙に興味をもっともつ子供たちが増えているかもしれません。
私から見るとその世界でトップを走る人、あるいは多くの人が注目をする人は世間とのコミュニケーションが必要であり、それはそこまでに至る道のり、そして今後を述べることで将来のファン層を作り上げ、時として人間形成にすら大きな意味合いを持たせるものだと考えています。
ましてや大坂なおみはプロのテニスプレーヤーであり、世界のトップクラスの選手です。その発言はテニス界や日本のファンのみならず、世間一般との重要なコミュニケーション手段であることは言うまでもないのです。
もしもスポーツ界で記者会見がこの世の中になければ多くのスポーツ新聞はなくなっていたかもしれません。居酒屋やネット上のやり取りはもっとつまらないものになるかもしれません。北米でこじゃれた飲み屋のトイレに行くと便器の上にミニテレビがついていて野球やらフットボールを放送しています。わずか2-30秒のことなのにテレビを見せるほどスポーツは多くの人を魅了し、その裏側まで皆、知りたいのです。
大坂なおみがもしテニスだけが圧倒的に強いけれど会見を受けず、テニス以外のコメントをしないとしたらどうなるでしょうか?彼女はもっと孤立感を味わい、精神的に追い詰められることになるでしょう。もちろん、会見においてテニスとは関係のない、時としてばかばかしい質問を浴びせる記者はいるでしょう。あるいは悪意を持ってひっかけ質問をする人もいます。しかし、それはまともに受けず、冗談で返すぐらいの器用さを持ち合わせればよいだけの話です。
もちろん、擁護派としてはテニスで120%の力を発揮しているのにそんな余裕はない、と言われるかもしれません。しかし、今まで無数のスポーツ界のインタビューにおいて涙を流した、あるいは不快な思いをしたケースはあるものの、それで精神的に病んだ人は少ないでしょう。
海外ではプレゼンテーションと自分をアピールすることを幼少の時から学校教育の一環で訓練されています。海外とのやり取りが長い人はプレゼンが決め手になることを体得しています。故に会見をむしろ自分のエキスになるように仕向けるのです。ボクシングなど格闘技では試合前の会見で闘志むき出しにすることで相手を威嚇します。会見はプロの選手であればあるほど利用価値が高いものであるのです。
もしも大坂なおみが真剣に会見拒否にこだわっているとすればそれは彼女のメンタルに何か弱い部分があるのかもしれません。あるいは、過去の彼女の言動からもしかしたら幼い内面を持つか、狭量なのかもしれません。世界最強のテニスプレーヤーの一角にいるとしても完全無欠の人間などいません。とすればそれは彼女のそばにいる人がそれにもっと早く気づき、対処をすべきだったのかもしれません。
彼女の姿勢に賛同する人はもちろんいると思いますが、それはかわいそう、という気持ちであって完全擁護にはなりえないと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月31日の記事より転載させていただきました。