バイデン大統領の予算教書:大きな政府の復活は増税と共に

バイデン大統領が5月28日に発表した初の予算教書は、歳出額が過去最大の6兆ドルとなりました。

予算教書発表をするバイデン大統領 NHKより

既報の通り、①インフラ計画”米国雇用計画”、育児・医療支援策”米国家族計画”を盛り込む”大きな政府”へ舵を切った内容、②中国を念頭に国防費拡大、③法人税やキャピタルゲイン税の増税――などが注目ポイントとされています。詳細は、以下の通り。

〇歳入、増税案
2022年度の歳入は、前年度比16.6%増の4兆1,740億ドル。
法人税率を21%→28%に引き上げへ。予算教書に合わせて発表された財務省の “グリーンブック”によれば、G20で検討されている法人税最低税率導入などを含め、22年度に980億ドル、向こう10年間では、2兆349億ドルの歳入増を見込む。
・年収100万ドル以上の富裕層にキャピタルゲイン税を現行の20%→39.6%へ引き上げ(オバマケアに盛り込まれた投資収益への課税3.8%を含め43.4%)などを通じ、向こう10年間で6,909億ドルの歳入増となる見通し。
・税源浸食濫用防止税措置の代わりに、企業による租税回避地への資産移転を防止するための税制上の措置を導入することで、向こう10年間で3,905億ドルの歳入増に。
税の抜け穴を防ぐ措置により、向こう10年間の6,388億ドルの歳入増を見込む。
・ただし、化石燃料関連企業による再生可能エネルギーへの移行への支援、電気自動車や蓄電池の開発支援などにクリーンエネルギー推進策により、向こう10年間で3,029億ドルの歳入減に。
・2017年末に成立した税制改正法で成立した個人所得税減税や基礎控除等などは2025年末で失効するが、ここには言及なし。また、税制改正法では州・地方税に対する控除の上限を1万ドルと規定したが、ここにも触れていない。

〇歳出
コロナ前の2019年度から36.4%増、前年度比17.1%減の6兆110億ドルと過去最大
国防予算は前年度比1.7%増の7,530億ドル、太平洋地域の抑止力強化のための基金に51億ドルを割り当て。国防総省の予算は7,150億ドル(軍人の給与を2.7%引き上げ、核兵器の近代化、人工知能や極超音速兵器などを想定した先端技術の研究開発の1,120億ドル、FBIやエネルギー省などの防衛関連プログラムに380億ドル追加割り当て)。
気候変動対策には360億ドル超雇用創出に840億ドル、地域のインフラ整備の一環として“コミュニティ開発補助金プログラム”に38億ドルをそれぞれ割り当て。

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チャート:2022~31年度の予算案(作成:My Big Apple NY)

〇政府債務残高、財政赤字のGDP比
2022年度の財政赤字は1兆8,370億ドル、GDP比7.8%と、金融危機が発生した直後の2019年度の水準近くまで縮小する見通し。経済正常化に伴い歳出が減少するため、20年度の3兆5,060億ドル(GDP比16.7%)から大幅に改善へ。ただし、予算教書には米国雇用計画や米国家族計画の支出を含むため、議会予算局の3月時点の予想(1兆560億ドル、GDP比4.5%)を上回る。

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チャート:財政赤字のGDP比見通し、2029年以降は成長率の前提差もあってCBO予想値が予算教書見通しを上回る(作成:My Big Apple NY)

・政府債務残高(連邦政府保有分を除く)は、2022年度に111.8%へ。これも、CBO予測値の102%を上回る。

〇成長率
2021年(暦年)は5.2%増、2022年は4.3%増を予想。2023年まで潜在成長率の2%超えを見込み、2024~29年に1.8~1.9%増を経て、2030年に再び2.0%増へ切り返す見通し。CBOが2027年以降、潜在成長率の2%割れで推移する見通しである半面、予算教書は一貫して2%付近を保ち2030年には同水準へ戻す楽観的な見方となっている。

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チャート:実質GDP成長率見通し、予算教書の方が楽観的(作成:My Big Apple NY)

――予算教書では増税措置を含むとはいえ、米国雇用計画や米国家族計画を盛り込む手厚い内容であるため、楽観的な経済成長を見込んでおります。財政赤字のGDP比予想は、その明るい成長見通しを反映したと言えるでしょう。ただし、政府債務残高(連邦政府保有分を除く)でみればCBOの見通しを上回り、政府総債務残高(連邦政府保有分含む)GDP比は、第2次世界大戦レベル超えなんですよね。

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チャート;政府総債務残高(連邦政府保有分の債務含む)では、第2次世界大戦の水準超え(作成:My Big Apple NY)

イエレン財務長官はこちらで紹介した通り、政府債務残高のGDP比より実質金利に注目すべきと発言しました。現時点で米10年債利回りなどが落ち着いているのは、米国雇用計画や増税の規模が縮小される見通しが優勢であるためと考えられます。しかし、7月末に債務上限引き上げ停止措置の期限切れもあり、米国雇用計画などの協議が進むにつれ、神経質な展開が見込まれます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年6月1日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。