尾身会長「五輪、普通はない」発言こそ正しい

東京五輪をめぐり、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が6月3日に「パンデミックの所でやるのは普通ではない」と発言したことが、政界に波紋を広げている。また、同氏はこの前日にも国会で「普通は(五輪開催は)ない。このパンデミック(世界的大流行)で」「そもそも五輪をこういう状況のなかで何のためにやるのか。それがないと、一般の人は協力しようと思わない」とまで言い切っている。

尾身 茂会長 NHKより

この発言に対しては、政界のなかにも、賛否両論あるようだ。尾身会長の発言に不快感を示したものとしては「ちょっと言葉が過ぎる。(尾身氏は)それ(開催)を決める立場にない」「(首相は五輪を)やると言っている。それ以上でも以下でもない」(自民党幹部)という見解もあるようだが、私は、尾身氏の発言こそ正しいと思う。

依然として、新型コロナが世界的に流行している時期なのだ。そのような時期に、数万人規模の人間が日本にやって来て、そして帰っていく。日本国内の感染拡大の可能性もだが、発展途上国へコロナを持ち帰らせてしまう可能性もあろう。医療体制や衛生環境が十分ではないそれらの国々にコロナを蔓延させてしまう可能性もあるだろう。そうなると、恐ろしい状態になることは一目瞭然ではないか。五輪を開催しなければ避けれたかもしれない事が、起こる可能性もあるのだ。

「五輪開催強行」を叫んでいる人は、何かあった時、その責任をとれるのだろうか。取れないだろう。「日本の感染状況が落ち着いていれば良いのではないか」「感染が恐い日本人は、黙って家でテレビを見ていれば良い」という人もいるが、日本人だけの問題でないのだ。

「中止すれば、多額の賠償金が!違約金が!」という人もいる。しかし、お金などより、人命が大切なのは言うまでもない。「何かをするにはリスクもつきものだ」という人もいる。確かにそうだろう。しかし、テロなどの突発事件と違い、コロナは現在進行形、目の前で進行している事態なのだ。危うい現実が目の前にあるのに、それを無視して突進して、周辺に迷惑をかけるのは、止めるべきではないか。

そして更に、違和感があるのは、日頃、日本政府に対して、海外からの入国規制強化を求めつつも、五輪は開催せよと主張する人々だ。これは明らかに矛盾している考えではないか。数万人規模の入国(五輪)が大丈夫ならば、そして政府の水際対策がそれ程、しっかりしているならば、普段、入国規制強化を求める必要はないのではないか。

何より、腹が立つのは、前述の自民幹部の発言である。勝手な時だけ「尾身会長、尾身会長」と意見や助言を求めておきながら、政府の見解と反対の意見を言っただけで、この言い方である。失礼極まりない。それはさておき、尾身会長の「五輪、普通はない」発言は、今の世論をよく現しているように思う。