ワクチン接種オリパラ関係者はPCR検査を免除すべき

政府新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長は3日、東京オリパラについて「やるのなら強い覚悟でやってもらう必要がある」と参院厚生労働委員会で発言した。尾身氏に指摘されるまでもなく、菅政権は東京オリパラを「安心安全な大会」とすべく「強い覚悟」で臨んでいるように思う。

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筆者は先月13日の本欄に、「招致を求めておきながら中止を言い出すなど無責任の極み、これほど国益を損なうことはない」と実施の立場を述べた。が、ある若いパラの代表選手の「オリパラ開催とコロナ終息の取り組みは同じもの」との趣旨の発言を聞いて、自らの料簡の狭さを恥じ入った。

この発言が建設的で前向きだったからだ。が、国会では野党議員から「救急搬送されにくい人が増えている。オリンピックに出場する選手と一般の日本人なら、どちらが優先して運ばれるのか」との狭量極まる質問も飛び出した。敢えていうなら重篤な方を優先すべきだろうが、どちらの命も大切に決まっている。

尾身発言にも拘らず、ここ最近のメディアの論調が、オリパラ実施を既定路線とするものに変化しつつあるように感じる。IOCの固い実施の意志とそれを受けた日本政府や東京都の態度の前に、ようやく抵抗を諦めたのかも知れぬ。が、その変化の背景にはワクチン接種の急拡大があると思う。

報道各紙は2日、ワクチン接種が1千万人を超えたとの総理官邸発表を報じた。医療従事者らが465万3千余人、65歳以上の高齢者らが573万4千余人とのことだ。自衛隊による大規模接種も始まったし、自治体への調査では7月末までに全市町村の98.7%が接種完了を予想している。

ワクチンに関してIOCとファイザーは5月6日、東京オリパラに参加する各国・地域選手団に無償で提供することに合意した。バッハ会長は選手村に入る者の接種率が8割を超えるとの見通しを示した。日本の関係者には約2万人分が別枠で提供され、1日には選手ら約2百人が接種した。

7月20日までに選手や関係者ら22百人(うちパラ関係者6百人)への接種を行うが、組織委員会は、審判員や通訳、一部ボランティアらに接種対象を広げるとしている。選手の中には優先接種を躊躇う向きもあると聞くが、早く接種を済ませて準備に専念して欲しいというのが多くの国民の願いだ。

日本選手団の福井団長は、「国民の皆様への接種体制とは別体制で進めている。(選手への)ワクチン接種は日本選手団、世界の選手団を守るだけでなく、日本社会の感染防止にもつながる」と述べたことが報じられた。先述のパラ選手と同じ趣旨のこの発言に同感する。

他方、オリパラの事前合宿や交流事業のための海外選手らの受け入れが中止になった自治体が、6月1日時点で105件の上ったと丸川五輪相が公表した。77件は新型コロナの影響で直接選手村入りするとのことで、他の理由は受け入れ態勢未整備など。いずれにせよ実に申し訳ない事態になった。

そんな中、同じ6月1日に豪州のソフトボール女子代表選手ら30名が来日した。群馬県太田市で7月17日まで合宿し、実業団や大学などの12チームと練習試合を重ねて大会に備える予定だ。合宿中の移動はホテルと野球場の往復に制限するなど、コロナ対策も徹底するという。

長い前置きになったが本題に入る。

この豪州選手ら30名は全員がワクチン接種済だが、滞在中は毎日PCR検査を受けるという。前述の行動制限も含めてこれらのことは、東京オリパラに参加する選手や関係者が新型コロナウイルスの感染対策として順守すべき行動制限のルールなどをまとめた規則集「プレーブック」に則っている。

この「プレーブック」はIOCが本年2月に初版を公表し、4月には入国時の水際対策などを強化した第2版に改訂された。6月にまとめる予定の最終版について丸川珠代五輪相は、「科学的知見を踏まえ、さらにブラッシュアップさせたい」としている。

そこで、筆者は「ワクチンを接種した者へのPCR検査はやめるべき」と提案したい。そう考えるヒントの一つが、米国CDCの新型コロナ検査サイトの記述だ。そこには「感染の検査を受けるべき人」という項目があり、以下のように書かれている(拙訳)。

  1. COVID-19の症状がある人。
  2. COVID-19 が確認された人と濃厚接触(24 時間で合計15分以上6フィート以内)した人 。
  3. COVID-19 の症状のない完全注1)にワクチン接種されている人は、COVID-19 の感染者との接触後に検査を受ける必要はありません。(注1)fully:既定の回数と接種後の期間)
  4. 過去 3ヵ月以内に COVID-19 の検査で陽性であって回復した人は、新しい症状が発生しない限り、暴露後に検査を受ける必要はありません。

<以下の2項目を省略>

注目すべきは3.と4.の2項目だ。米国の代表団でこの2項目が当てはまる者には、少なくとも米国内ではPCR検査や抗体検査が免除されていることになる。恐らくこの先、全員が当てはまることになるだろう。

他方、我が国の6月2日現在のPCR検査実施人数は14,522千人で、うち陽性者数は749千人で陽性率は約5%だ。また陽性者のうち入院治療等を要する者は50,755人(うち重症者1,284人)で、陽性者のうちの約7%となっている(検査後に入院治療が必要となった者の数は不詳)。

つまり、ワクチン接種者がほとんどいなかったこれまでの日本にあっても、陽性者の約93%は入院治療を要しなかったということになる。いわんやワクチン接種者においてをや。

これには被検査者の基礎疾患の有無や体力、そして何より自己免疫の程度などの影響もあろうが、PCR検査そのものの精度も関係するだろう。が、知られている通りPCR検査は、上気道からウイルスのRNAを採取して、それを増幅する検査法だ。(日経新聞

増幅のサイクル数をCt値といい、高く設定すると少ないウイルス量でも陽性となる。国立感染症研究所のマニュアルでは、Ct値が40以内でウイルスが検出されれば陽性としているが、指針はなく機関によって幅がある。外国でも台湾と中国は各々35未満と37未満で、40程度の国が多いとされる。

同記事は、米ニューヨーク・タイムズの報道では、米国でも基準値は40前後に設定されているが、一部の専門家から「30~35程度が適正だ」との声も上がっているという、と報じている。PCR検査とはこういった類のもの、との理解が必要ということだろう。

話を戻せば、「プレーブック」に沿ってオリパラ関係者に毎日PCR検査をするなら、前述の7%程度は陽性になる可能性が高い。なぜなら、ワクチン接種済であろうがなかろうが、呼吸をすれば上気道にウイルスは存在するはずだから。地球上からコロナウイルスが消滅すること(=ゼロコロナ)はない。

従って、毎日PCR検査する場合、ワクチン接種済者から陽性者が出たらどう対処するのかをIOCと政府、組織委は考えておかねばなるまい。隔離の仕方や期間によっては試合に出られなくなる可能性がある。そうなれば、ワクチン接種済みの米国選手が訴訟を起こす可能性だって考えられなくもない。

ルールを守らない参加者は「国外退去」も視野に入れるとも報じられる。が、ルールを守っても陽性者はきっと出るだろう。筆者は米国CDC基準に倣い、ワクチン接種者や過去3ヵ月に陽性になって回復した者をPCR検査対象から除外するよう、第3版の「プレーブック」を改訂すべきと考える。