ドイツでは9月26日、任期満了に基づき連邦議会(下院)選挙が実施される。約16年間政権に君臨してきたメルケル首相の引退を受け、ドイツではポスト・メルケル時代を迎える。欧州連合(EU)の盟主ドイツの政界変動は欧州全域に大きな影響を及ぼすことは必至だ。
その連邦議会選の動向を占う最後の州議会選挙、独北東部のザクセン・アンハルト州議会選(定数87、有権者約180万人)の投開票が6日、行われた。世論調査ではライナー・ハーゼロフ首相が率いる「キリスト教民主同盟」(CDU)と極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のトップ争いと予想されていたが、CDUは得票率35.2%と前回比(2016年)で5.4%増、30%の壁を破り第1党をキープ。一方、AfDは23.3%で前回比で1.0%減で、CDUには大きく水を開けられた。CDUにとっては予想外の勝利となり、AfDは第2党の地位を守ったものの、失望の結果となった。
ドイツ民間放送が報じた暫定結果によると、CDU35.2%、AfD23.3%のほか、左翼党は11%と前回比で5.3%減と大きく後退を余儀なくされた。社会民主党(SPD)は8.2%と一桁の得票率に落ちた。連邦レベルでは飛躍が続く「緑の党」は6.1%と0.9増に留まった。旧東独の州では「緑の党」のプレゼンスが旧西独と比べ遅れていることが改めて明らかになった。9月の連邦議会選で「緑の党」が「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)を破り第1党に躍進するためには旧東独での支持基盤の強化が急務となる。一方、リベラル政党「自由民主党」(FDP)が7%を獲得し、10年ぶりに州議会に進出した。選挙後の連立工作でFDPが関与できる余地が出てきた。
AfDは前回選挙で第2党に躍進、87議席中、21議席を獲得し、政界を震撼させた。欧州全土を襲った中東・北アフリカからの大量難民の殺到を受け、AfDは外国人排斥、難民拒否をアピール、有権者の心を掴むことに成功した。AfDは今回、同州議会選で第1党を目指したが、有権者の関心が「移民」問題から新型コロナウイルス感染問題と経済問題に移り、AfDは独自の政策を有権者にアピールできなかった。AfDはコロナ感染問題ではマスクの着用を拒否する程度で、コロナ禍にある有権者に明確な政策を提示できなかった。有権者はコロナ禍問題より、身近な経済問題に関心を寄せている。旧東独のザクセン・アンハルト州の失業率は7.5%とドイツ全体の平均失業率5.9%より高い。左翼党は雇用市場での旧東独国民の差別問題を取り上げてきた。
ちなみに、旧東独のザクセン・アンハルト州はAfDの砦だ。AfDはオリバー・キルヒナー氏を担ぎ、第1党を目指した。同党のモットーは「全て故郷のために」だ。キルヒナー氏はチューリンゲンのビョルン・へッケ派(Bjorn Hocke)のグループに属する党内でも極右派だ。連邦憲法擁護庁はザクセン・アンハルト州のAfDを「極右過激派」と受け取り、公式には公表されていないが、同州憲法擁護庁は今年に入り、同州AfDを監視している。
選挙の結果、CDUは第1党を堅持し、ライナー・ハーゼロフ首相の3選は確実となった。同州議会は現在、CDU、SPD、そして「緑の党」の3党から構成されたケニア連立政権※(87議席中、46議席を占める)だ。同連立政権の継続が予想されるが、CDUが「緑の党」の代わりに、FDPとの連立にパートナーを変える可能性は排除できなくなった。
連邦政治の視点からみると、CDUのアルミン・ラシェット党首はザクセン・アンハルト州議会選の勝利の勢いをもって9月の連邦議会選に臨みたいところだろう。CDUとの間で第1党争いを展開する「緑の党」は40歳のアンアレーナ・ベアボック共同党首を党筆頭候補者に立て、「環境問題」を訴えて、ポスト・メルケルの新しい女性首相の誕生を目指しているが、先述したように旧東独地域での浸透が急務だ。社民党は連邦議会選を前に、最後の州議会選で得票率を少しでも上乗せして、再スタートしたいところだったが、同党の現状は深刻だ。
連邦議会選まで4カ月を切った。CDU/CSUと「緑の党」の政権争いが激化する一方、AfDがどのような選挙戦を展開させるか、注目される。その意味から、ザクセン・アンハルト州議会選は本場への最後のストレステストだったわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年6月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。