なぜコロナウィルスの起源の解明が必要なのか?

鎌田 慈央

再注目される研究所起源説

先月の26日、バイデン大統領はコロナウィルスの起源について改めて調査するよう情報当局に要請した。この動きは、従来のウィルスの起源の仮説(露店で販売されたコウモリが感染源)に対して研究者たちが声を上げだしたことと関係している。

武漢ウイルス研究所 NHKより

Newsweekによって特集された、DRASTICと自称している「アマチュア探偵」たちの調査報道により、従来の仮説に疑義があり、武漢研究所起源説が全くのデタラメでないことが分かり、多くの識者がその調査結果に便乗しだした。また、権威のある科学者もその調査結果に意義を見出した。アメリカで最も評価を集める科学者の一人であり、且つ新型コロナウィルスの研究の第一人者であるジェシー・ブルームである。

Newsweekの特集記事からの引用だが、ブルーム氏は「ウイルスが研究所から流出した可能性はきわめて低いと考えていたが、その後の調査を踏まえると、今ではかなり妥当な見解に思える」と述べたそうだ。そして、ブルーム氏はそれだけではなく、世界トップクラスの科学者たちと共同でサイエンス誌に公開書簡を発表し、研究所起源説の可能性についての検証がされるように要求した。この要求により、陰謀論とみなされ、腫物扱いされていた研究所起源説という仮説に箔が付いたのである。

また、今回のバイデン大統領の発表も主要メディアも従来のコロナの起源に疑義を呈したことも見逃せない要因である。WSJ紙の報道によって武漢の市場でコロナウィルスの感染が確認された以前に、武漢研究所の研究者がコロナウィルスの感染を確認していたのではないかという疑惑が沸いた。

なぜ陰謀論のレッテルが張られた?

しかし、なぜ今なのか?コロナウィルスが発生した当初からそれが研究所で生み出されたのではないかと指摘する声は出ており、且つその仮説を一蹴できない理由も存在した。まず、コロナウィルスが発生したと言われていた市場は、武漢ウィルス研究所から16キロほどしか離れていなかった。第二に、武漢研究所ではコウモリ型のコロナウィルスの研究が進められていた。さらに、2014年の段階から武漢研究所ではウィルスの威力を強化させる実験がなされており、実験の安全性に懸念が表明されていた。さらに、米国務省が武漢研究所の安全性に疑問符を呈しており、研究所が原因でパンデミックが引き起こされる可能性が示唆されていた。

上記の事実はコロナウィルス発生当初から分かっていたことであり、それに中国の不透明を加えると、研究所起源説がひとつの仮説として立証可能なのではないかと科学に精通していない一般人でも思うであろう。

しかし、この一見説得力がある仮説は主要メディアによって陰謀論と切り捨てられていた。また、この仮説を初めに指摘しだした米政治家の一人であるコットン上院議員をNew York Timesは科学者の共通見解に反していると非難した。

このようにメディアが反応した理由は、マシュー・イグレイシャス氏はメディアが持つトランプ氏と彼の支持者に対する不信だと暗示している。メディアはオバマ元大統領の出生地疑惑を声高に叫んでいた経歴がある陰謀論者であり、且つ民主党系の人々に極度に嫌われているトランプ氏が研究所起源説に手を出したことにより、条件反射的にその主張を事実無根だと非難しなけれいけない心理が働いてしまった。そのことが、研究所起源説をメディアが無視した背景にあることは十分に考えられる。

絶対的な仮説は存在しない

また、イグレイシャス氏に加え、ワシントンポスト氏のコラムニストであるジョシュ・ローガン氏は従来のコロナ起源説が絶対的なものではないことを理解するうえで重要な主張をしている。それは米メディアが主に述べていた科学者の共通見解なるものが存在しないことである。ローガン氏が言うように科学者の中でも米疾病対策センター(CDC)前所長のロバート・レッドフィールド氏のように研究所からコロナウィルスが発生したと考えている人がいる。よって、科学者の共通見解があるという前提は事実ではない。

それに加え、科学者の共通見解とされている従来の説の信憑性を担保しているのが、コロナウィルスの危険性を指摘した医師を口封じしようとした前科がある中国政府だと考えると、眉唾物の見解であることが分かる。

責任と再発防止

上記で述べたことから分かるように、コロナウィルスの起源に関する従来の説、そして、研究所起源説の両方はひとつの仮説にすぎない。

しかし、そのいずれかの仮説が事実だった場合によって、今後の対応が全く変わってくる。もし、前者の仮説が事実であるならば、ウィルスは自然発生的に起こったものであり、たとえそれが中国発生のものだったとしても、情報共有が遅れた以外の側面で中国を非難することは難しい。

しかし、実際に研究所からコロナウィルスが発生したことが発覚すれば、それは中国政府の管轄の下で発生した問題であり、中国の責任問題に関わってくる。また、それまでの間ずっと嘘をつき続けて、自らの過失を隠そうとしたいたことが事実であるならば、それは謝罪だけで済む問題ではなくなる。

コロナウィルスの起源を解明することは誰に責任の所在があるのか知り、人類が次のパンデミックの発生を防ぐうえで、必要不可欠なことである。

しかし、真相の解明が中国共産党の裁量次第であることを考えると、起源に関する問題は未来永劫やぶの中だと悲観的になるのは筆者だけではないだろう。