京都市、財政破綻に向けまっしぐらのワケとは?

村山 祥栄

6月7日、『京都市、財政破綻?』のニュースが全国のお茶の間を駆け巡った。

京都市が発表した新たな行財政改革計画案を受けたニュースだったが、なぜそれを回避する為の改革計画の発表が「財政破綻?」というニュースになってしまったのか。

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コロナで計算が狂った負担先送り策

まず、ニュースになった元ネタは、計画前段に記載されている『公債償還基金枯渇問題』だ。

少し難しい言葉だが、公債償還基金とは一般的には減債基金という名称で知られており、一言でいうと将来の借金の返済原資の積み立てである。通常、企業の場合手形が不渡りになったり債務超過に陥り倒産するが、自治体の場合は借金が返済できなくなると破綻する。

皆さんに馴染みのある一般的な借り入れは毎月決まった額の返済がやってくるが、自治体の借金は満期一括償還という少し変わった返済方法になっている。毎月ではなく、満期時に全額返済をするというルールだ。その為、毎年計画的に満期に向けた積み立てを進めていく。その積み立てが公債償還基金というわけだ。

この公債償還基金を京都市は長年取り崩して予算編成をするという実に恐ろしい資金調達方法で黒字を維持してきた。結果的には借金同様、負担の先送りなのだが、借金ではなく手持ちの金を流用するという点から問題が顕在化されにくい分質が悪い。当然、将来返済する資金を流用している為、どこかでこの方法は破綻する。まともな自治体の経理担当者であれば絶対にこんな危険な手法は使わない。それを長年続けてきた結果、積立額が半減し、コロナ禍が追い打ちをかけ、どう計算し直しても令和7年にゼロになるという試算が出てきた。

これには取り崩しを推進してきた門川大作京都市長も慌てたようで、急遽新たな行財政改革計画を策定したというのがことの顛末である。

破綻を回避できない再建策

しかし、計画を策定したということは、それを脱却するための計画に他ならないと誰もが思うところだが、そうではない。そこが今回の話をより深刻にさせている。

現在の公債償還基金の残高は1380億円で、普通に考えればこれを維持するか、またはこれまで取り崩したものを少しづつ基金に戻し通常の状態に戻すという話だと誰もが思うはずだ。しかし、今回の計画では、急激な市民サービス低下を回避するためにギリギリまでは取り崩しを続け、令和7年時点で1000億円の基金残高を確保(380億円減ってるではないか!)、さらに令和15年までは取り崩しを続けるという計画になっている。もはや全く意味が分からないのだ。つまり、破綻のスピードは減速させるが、破綻への道は回避できないという話だ。別表には、社会福祉関連経費は今後も増え続け、財政を圧迫すると記されているにもかかわらず、なぜか令和15年には取り崩しを終了させるという何の根拠もない目標まで設定されている。

当たり前のことだが、今できないことが、さらに財政的に厳しくなる将来に出来ると断言する計画には驚きしかない。そうでなくとも、京都市の財政目標は常に下方修正の繰り返しでほとんどが達成されたことがない。そればかりか、予算というものに対する意識は希薄で、特に工事契約は、この3年だけで見ても大型工事は契約後に続額が繰り返され、なんと61億5000万円が増額補正されている。市役所の建て替えに至っては契約後5度にわたる増額で25億円が追加で支払われている。(これは見積もりが甘いのか、はたまた意図的に最低価格で議会を通過させているのかは謎である)

大丈夫か?と誰もが疑いたくなる恐ろしい計画なのだ。

あくまでサービスを維持する為やむなしと言い張る京都市

計画書はまず、公債償還基金取り崩し継続の正当性が説かれている。本来取り崩しをやめて、せめて収支均衡するところから始めるのが当たり前だが、そうするととんでもないしわ寄せが市民にいくという。例えば、『保育料は4割上がります』『国民健康保険料は3割上がります』『敬老乗車証は廃止』『独自に進めてきた保育士の処遇改善策は廃止』などという文言が並ぶ。もはや脅しに近い。逆に言えば、それらを守るためには将来への負担やむなし、破綻ギリギリやむなしということだろうか。言うまでもないが、破綻すればこんなものでは済まない。

その上で、様々な改革案が示されており、それ自体は評価できるものもあるし、財政再建を進める定石に則った取り組みを多数提示されている。それはそれでいい。

ただ、気になったのは、人件費の見直しだ。京都市の人件費は全国最高レベルで、政令市で比較しても171億円(人口差等の補正後の金額)も高い。しかし、今回の改革案では削減額年間十数億円と総人件費の1%にも満たない微々たるものだ。最大6%の給与カットを謳っているもののほとんどの職員は1%程度のカットに留まり、全国最高レベルの給与水準は今後も維持されることになる。

大盤振る舞いが生み出したツケ

総括をしよう。世間では、「コロナで税収が減ったから」「観光客が減ったから」「サービスが過剰だから」「地下鉄の負債が多いから」といった理由が京都市を破綻に追いやっていると思われがちだが、それは違う。コロナで税収が減ったのは日本中同じだし、観光客が自治体にもたらす納税額は全体から見れば微々たる額だ。地下鉄の負債は確かに大きかったが、この10年で過度な負担にはならないところまで改革が済んでいる。

賢明な読者はもうお分かりだろう。『サービス過剰と放漫経営の成れの果て』なのだ。

将来にツケを残すことをわかっていて、次々と施策を充実させ続けてきた。門川市政はツケを増やし続け、市民には「大丈夫、お任せあれ」と豪語し、これを14年続けてきた。だからこそ、市民からすれば寝耳に水なのだ。

今年に入ってからも、市立芸大の移転費用に269億円、市役所北庁舎新築76億円を計上している。中央市場・ロームシアター・市立美術館・市役所のの建て替え、動物園の大規模改修とこの数年で湯水のように予算を投下し公共事業を推し進めてきた。職員の給与は全国上位ランキングに名を連ねる好待遇を維持し、市内の高齢者は無料でバスや地下鉄にも乗れる(一部負担有り)。多くの先進的取り組みは全国に注目をされてきた。しかし、先進的取り組みの多くは金がかかる。

世間ではきっと「京都市は資金力あるから、新たなことにどんどん挑戦できるのだろう。素晴らしい」と思っておられるのだろうが、実態は自転車操業のような状況を続け、そして今もなおそこからの脱却が出来ないでいる。

これが古都京都市に突き付けられた現実だということを市民も含め、ほとんどの人は知らない。

地下鉄延伸など積極財政を掲げる市長の選挙公報(2020年1月)