そもそも「専門家会議」が「基本的対処方針分科会」に衣替えした段階で、経済担当の委員も入れて、提言が医療(というか感染症対策)に偏らないことを目指したはずだった。
ところが、そこで入った経済学者が「国民全員にPCR検査をしてゼロコロナにしないと経済再生はないし、そちらの方が安上がり」だと主張していた小林慶一郎氏なので、医療中心に偏った提言が変わることはなかったし、むしろ強化された雰囲気さえある。
先に結論を書いておくと、小林氏は昨年5月時点ではコロナの「封じ込め」が可能だと信じていた。我々は「封じ込めは不可能」だとこの頃から主張していたのだが、それは水掛け論にしかならない。そして小林氏は、時間が経つに従い、どうやら「封じ込めは不可能」だと認識したようなのである。
ちなみに私が2020年4月26日に書いた記事を証拠として引用する。私はこの頃から「封じ込めは無理なので、コロナが広がる前提で政策を立てるべき」だと主張していた。
今振り返ると、小林氏の発言は変わってきたことがわかる。
まず、2020年5月27日の記事から。
この記事は小林氏自身が書いたものではなく、小林氏の講演内容を第三者が解説したものだ。
一時は国民全員と言っていましたが、「医者に負担になるほど増やしてはいけない」とも書いてあるので、かなりトーンダウンはしていますね。
そう、この時点で小林氏の発言はトーンダウンしている。考え方を多少変えているのだ。
一気に時間は飛んで、2021年1月8日の記事。
これは小林氏自身が執筆した記事である。この中で自身の考え方が間違いだったことに言及している。
欧米の経済学者たち(ノーベル経済学賞受賞者のポール・ローマーら)の議論は、検査によって感染者を発見し、隔離すれば、二次感染を防げるので、社会全体で感染者の数を減らせるという考え方だった。検査の供給量(機器・試薬や人員などのキャパシティー)に限界がなく、検査コストも安価だったら、検査を国民全員に実施し、陽性者を適切に隔離すれば、理論的には、感染を収束させられる。しかし、現実には、検査キャパシティーには様々な限界がある。実際、欧米でも検査キャパシティーは日本よりも圧倒的に多く増やしたものの、それでも検査数が感染拡大に追いつかず、一般市民への無差別大量の検査によって感染拡大を収束させるという戦略は成功していない。
はっきり言って、「欧米の経済学者たちの戦略は成功しなかった」と責任を他人に押し付けている。あなた、自分の頭で考えなさい、責任は自分で取りなさい、と私は言いたいのだが、「自分は世界の権威が言うことに従っただけだ」という感染症専門家と同じ言い訳をしている。
そしてこのコラムの内容は、「感染症専門家の言うことに私は騙されたんです」と言っているようにしか、私には読めなかった。
最後にオリンピック開催に関しての2021年6月10日の発言。
東京五輪:リスク低減はワクチン次第「有観客も可能」、問題は競技場外のお祭り騒ぎ-コロナ分科会の小林委員
言ってることが、相当まともになっている。経済がひどい状態になっていると、きちんと自分の役割に応じた発言までしている。分科会に入った当初は「PCR検査を増やせ」と、どこが経済担当委員だ、という発言しかしていなかったのに。
もう既に心配。かなりひどい状態だ。協力金を増やす手もあるが、基本は無利子・無担保融資で資金繰りをつなぐというのがメインの政策だ。今後、ワクチン接種が進んで、コロナが収まった後、積み上がった借金をどうするかということは今から考えないといけない。返済が始まると、中小の飲食業、旅行業はあきらめて倒産してしまうので、借金をある程度免除しないとどうしようもない。コロナ関連で不良債権はラフに言って10兆~20兆円発生するのではないか。その分は免除せざるを得ない。
中小零細企業に融資している地域金融機関が債務免除すると、損失が出るので、(国が)金融機関に資本注入する。経営責任を追及しないで、資本注入する必要があると思う。損失を銀行にかぶってもらうのは難しい。政府の要請で、政策として無利子・無担保融資をやっているのだから、政府が支援しないといけないと思う。
小林氏がまともなことを言うようになっているから、分科会もまともな方向に進むのかもしれないが、それ以前に分科会自体が菅総理から相手にされなくなる可能性の方が高いと、私は思っている。