投票率を考える③:行ってみたくなる選挙

衛藤 幹子

藪から棒に古い話で恐縮であるが、15、6年ほど前、スウェーデンの選挙を間近でみる機会があった。印象深かった点をいくつか紹介してみたい。まず、スウェーデンの選挙は期日前投票の期間が3週間と長い。ちなみに日本は最も長い参議院議員及び都道府県知事選挙でも16日間である。

2点目は、期日前投票の投票所がスーパーマーケット、郵便局、大学の構内と、様ざまな場所に数多く設置され、投票の利便性が高いことである。ただ、投票所といっても、立会人や投票用紙を置くための机、仕切りのある投票ブースがあるだけの簡素なものだ(写真①)。とはいえ、さしたる手間もなく投票できるのは、何かと多忙な現代人には便利である。

写真①:ストックホルム大学中央図書館入り口前の期日前投票のコーナー(2006年9月7日筆者撮影)

このように期日前投票で手厚いサービスが提供できるのも、彼国では国政から地方、さらに国民投票まですべての選挙を一まとめにして、4年毎に実施するという合理性ゆえである。日本のように、選挙期日がバラバラで、たとえば2000年以降に限ってみても、統一地方選も含めて全国規模の選挙がなかったのは、2002、2006、2008、2012年だけと、やたら選挙が多いと、簡単にはいかない。

スウェーデン選挙の3つ目の面白さは、投票日に期日前投票の選択の変更が可能なことだ。期日前投票でX政党のY候補に投票したものの、YよりもZの方が良かったと考え直すと、投票日に投票所へ行き、改めてX党のZに投票して、期日前投票時の選択を変更できる。ダメ出しは期日前投票に限られ、投票日の選択は変えられない。考えてみれば、3週間も間があると、心変わりはあり得るわけで、それを認めようという柔軟な対応である。

党首討論のようなハイレベルな場面は別にして、市中の選挙運動に堅苦しさはない。明るく、陽気で、皆で盛りあがろうぜという雰囲気なのである。たとえば、選挙運動中にしばしば見かけたのが、お揃いのジャンパー姿の候補者や応援員によるミニコンサートだ。楽器をかき鳴らし、歌唱して、道ゆく人を立ち止まらせる。選挙運動の演出ではあるが、有権者はもとより楽器や歌を披露する彼ら自身がお祭り気分を楽しんでいた(写真②)。

写真②:左翼党の演奏による選挙運動(2006年9月7日、ストックホルム中心にあるデパート前のスペースにて、筆者撮影)

日本でも2016年の公職選挙法の改正により、大型商業施設や駅前などに誰でも投票可能な共通投票所を設置する制度が導入された。しかし、二重投票防止システムの導入に費用がかかる等の理由から、設置はあまり進んでいないという(NH政治マガジン)。だが、たとえ今後普及が進んでも投票率向上に果たして貢献するのか、疑問だ。投票の利便性を高める工夫は大いにやってもらいたいが、それだけでは若い有権者の投票率向上は期待できない。

スウェーデンと日本の違いは、人びとの選挙への向き合い方に由来するのではないか。スウェーデンの人びとは選挙を身近な、日常の延長線上でとらえる。だから、生活を楽しむように選挙も楽しむ。他方、日本で選挙は非日常的な、「神事」だ。神棚に祭り上げ、人びとは上下を身に付けて恭しく取り扱う。祭政一致に遡る文化的な背景を考えると、闇雲に否定はできないが、神棚に上げたままでは若い有権者を惹きつけることは難しい。

そこで、せめて投票日には神棚から下ろし、投票所を楽しい場所に変えてみてはいかがであろう。ヒントになるのが、オーストラリアの投票所に登場する屋台だ。有権者は投票の傍ら、ジューシーなソーセージに炒めた玉ねぎを挟んだホットドッグを味わうという。このホットドッグは「民主ソーセージ」と呼ばれ、有権者の楽しみになっているらしい(NHK政治マガジン)。

投票所になる学校やコミュニティセンターには運動場や広場などの広い空間があるので、屋台やキッチンカーの出店には好都合だ。次いでに、スウェーデンのアイデアも拝借し、音楽やダンスのパフォーマンスも取り入れたい。サークルや愛好家、ストリートミュージシャン/ダンサーなどにスペースを提供し、自由に自分たちのパフォーマンスを披露してもらう。食べ物に歌や踊りがあれば、投票所は楽しいデートスポットに変身だ。目指すのは、行ってみたくなる選挙である。

「投票率を考える①:何が有権者を投票に向かわせるのか」はこちら
「投票率を考える②:若者の投票行動」はこちら