前回、陽性的中率について解説しました。今回は、陰性的中率について考えてみたいと思います。
陰性的中率とは
「検査結果が陰性となった時、真に陰性である確率」
のことです。
無症状の人を検査した時、検査の感度70%、特異度99%、有病率0.1%(1000人のうち1人が感染)で計算しますと、陰性的中率は99.97%となります。別の言い方をしますと、偽陰性の確率が0.03%です。計算方法は、多数のWebサイトで解説されていますので、ここでは省略します。
感度とは、「疾患を有する人を検査した時、正しく陽性となる確率」のことであり、感度70%であれば、偽陰性の確率は30%となります。このため、PCR検査は偽陰性が多いイメージがあります。しかし、陰性的中率の観点からは、偽陰性の確率は0.03%と非常に低い数値となります。
感度は、「診断が確定している人」に対する確率であるのに対して、陰性的中率は、「検査前の診断が未確定の人」に対する確率です。概念が異なりますので、相違をよく理解しませんと、意味不明の議論となってしまいます。
無症状の人に対して、スクリーニング検査としてPCR検査をする時は、偽陰性の可能性は、ほぼ無視できます。ただし、陰性が保証されるのは、検査当日のみであり、翌日陽性となる可能性は否定できません。したがって、実効性のあるスクリーニング検査とするには、検査間隔を狭めることが重要になってきます。PCR検査を頻回に行うことは、検査処理能力や費用の観点より、多くの場合は困難です。代替検査としては、抗原定性検査、抗原定量検査、SmartAmp法によるPCR検査などがあります。オリンピックのプレーブック第2版では、選手に対して毎日、唾液の抗原定量検査を実し、陽性となった場合に、PCR検査を行うとしています。
偽陰性が問題となるのは、症状を有する人や濃厚接触者など検査前確率が高い人を検査した場合です。有病率(検査前確率)が高くなりますと、陰性的中率は低くなります。前者が50%の場合、後者は76.7%となります。偽陰性は誤診につながりますので、見極めは大切です。疑わしい時は、検体採取・輸送マニュアルに沿って、検体を取り直し再検査、納得できない時は更に再々検査が必要です。
検体が唾液の場合は、採取前に、飲食・歯磨き・うがいをしないことを、被験者に十分指導することが大切です。
母集団 | 有病率(検査前確率) | 陰性的中率 |
---|---|---|
全国民 | 0.1% | 99.97% |
全国民のうち発熱・咳などの症状がある人 | 5%~15% | 98.4%~94.9% |
全国民のうち症状に加えて肺CT所見を有する人 | 50~99% | 76.7~3.2% |
有病率(検査前確率) | 陽性的中率 | 陰性的中率 |
---|---|---|
0.01% | 0.70% | 99.997% |
0.1% | 6.5% | 99.97% |
1% | 41.4% | 99.7% |
10% | 88.6% | 96.7% |
50% | 98.6% | 76.7% |
99% | 99.99% | 3.2% |
補足)有病率の設定について
第2回抗体保有調査(2020年12月実施、厚労省)では、抗体保有率は、東京都1.35%、大阪府0.69%、宮城県0.14%でした。有病率は、「ある時点で、その疾患を有している人の割合」のことですので、抗体保有率よりは、かなり低い率となります。また、母集団の決め方(全国か特定の地域か)により、有病率は変化します。季節によっても変化します。
今回は、話を簡単にするために、有病率を0.1%と想定して議論を進めました。
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鈴村 泰
医学博士、第一種情報処理技術者、元皮膚科専門医、元漢方専門医
1985年名古屋大学医学部卒業。
アトピー性皮膚炎などの漢方薬治療と医療情報処理を得意とした。
現在はセミリタイア。画像アプリ「皮膚病データベース」を公開中。