中野サンプラザの解体・再整備を起爆剤として
2021年5月6日、中野サンプラザを含む周辺再開発の事業者(代表:野村不動産株式会社、共同:東急不動産株式会社、住友商事株式会社、ヒューリック株式会社、東日本旅客鉄道株式会社)と中野区は「中野駅新北口駅前エリア拠点施設整備の事業化推進に関する基本協定書」を締結した。
中野区では、中野駅を中心とする周辺の約110ヘクタールを範囲とした、中野駅周辺地区を「東京の新たなエネルギーを生み出す活動拠点」としていくためのまちづくりに取り組んでいる。
警察大学校等跡地を開発し、オフィスビルや大学、病院、住宅、公園など多様な都市機能が集積する中野四季の都市地区、にぎわいや交流の拠点として整備する中野駅新北口駅前エリア(区役所・サンプラザ地区)、中野駅の南側の活性化を導く中野二丁目の市街地再開発や中野三丁目の駅直近地区のまちづくりなど、各地区の特色を活かしたまちづくりを進めている。
中野駅周辺で大きな再開発が進んでいるが、箱モノができても、運用がうまくいかなければ、街は衰退する。
そのため今後、中野駅周辺で活力が生まれ、それが中野区全体に波及するための方針案を示させていただく。
キャッチフレーズは「小さな失敗と大きな成功ができる街NAKANO」、キーワードは「ダイバーシティマネジメント」「エリアマネジメント」「イノベーションマネジメント」である。
1.ダイバーシティマネジメント
ダイバーシティマネジメントとは、多様性の個の力を活かした人間関係の構築、組織運営である。
3つのステップ(1)それぞれの個性が協力し合い仲間を募り、(2)それぞれの位置関係を理解した上で意見を尊重し、(3)共通目標を設定し、スパイラルアップしていく、このプロセスが重要である。
個が強いが余りに烏合の衆とならないように「共通目標を設定する」ことが最も重要である。詳細については「ダイバーシティマネジメントのすゝめ」を参照されたい。
中野区の基本構想には「多様性により新たな価値をつくります」と明記されている。もちろん多様性を認め合うことは大前提だが、多様性を認め合うだけでは新しい価値が生まれることは困難である。新しい価値を生み出せる環境・土壌を創出する必要がある。
「企業は誤解?ラグビー日本代表に見る“多様性”のホントの意義とは」に解説しているが、理想のカタチは2年前のラグビーワールドカップに見られた日本代表である。当時、日本代表は代表登録31人中15人が日本ではなく、他国にルーツを持つ方々で、何よりもキャプテン、リーチマイケルはニュージーランド人であった。しかし日本代表選手は一般の日本人よりも日本を愛し、大会前に国家・国歌に対する理解を深めるため、さざれ石を見学するなど、誰よりも日本人の魂をもったチームであった。共通の目標・目的に心ひとつにすることでダイバーシティ、多様性は強みとなり、快進撃を続けた。
個々の力を認め合うだけではなく、共通目標を見つけ、力を合わせるが重要である。
2.エリアマネジメント
今年度、中野区と地元経済界の方々を中心に(仮称)中野駅周辺エリアマネジメント協議会の設立がなされ、来年度以降は(仮称)中野駅周辺エリアマネジメントビジョンの策定、ビジョンに基づく具体的な事業の検討・実施というスケジュールである。
エリアマネジメントは都市計画学の延長線上にある。大雑把に言うと都市化され、都市が成熟し、社会・経済活動が横ばい、停滞するとスラム化することは都市計画学の基本である。他の自治体の成長に埋もれ、スラム化しないためにもブランド力を高め、中野が都市として常にアップデートし続ける必要がある。
ブランド力というのは「都市・地域間競争に資する付加価値」、あるいは「都市・エリアの不動産価値」を指す。ここでは「都市・地域間競争に資する付加価値」を与える最たる方法として注目されているのがエリアマネジメントである。新宿の隣である中野が、新宿をまねても付加価値は生まれない。
エリアマネジメントについては「“エリマネ”って何?中野サンプラザ再開発後の中野」で分類わけさせていただいたが、大きく分けて住民主体、企業主体、行政主体での運営がなされている。
エリアにより、どういう方向性でエリアマネジメントをするかにより、どの主体が適しているのか、どの組み合わせがいいのか熟慮する必要がある。
私としては特区制度を活用した道路・空間の利用に関する規制緩和をすることでエリアの可能性を最大限に引き出すことが中野の活力創出になると考える。(一例:“たかが一歩”が生む新たな価値〜コロナ支援で飲食店の道路占用緩和)
3.イノベーションマネジメント(新規事業)
エリアマネジメントは新たな価値を生み続け、付加価値を付けていかなければならないが、その種を植えつけ、つまり新規事業が立ち上げやすい環境を創っていくイノベーションマネジメントが必要である。
中野の境遇から、今から王道の産業を育てることはかなり厳しい。当初から風変り、独自の個性ある事業に焦点を絞り、それぞれ独自の成長を遂げられるように事業の創出や創業を支援する体制を構築し、インキュベーション、スタートアップができる街とする。
どの自治体も産業振興部門があるわけだが、公的に支援できる限界があるため、様々なサポート体制が得られる環境が必要であり、ダイバーシティマネジメントとエリアマネジメントと連携させることで可能性を引き出す。
A. 共感・同調による関係構築(思考・文化)
ダイバーシティマネジメントとエリアマネジメントを組み合わせ、気が合う人たちが集まる場所を創る。
一昔前まで一家団欒でテレビ・ラヂオの音楽を聴いていたが、ウォークマンの誕生、インターネットの発展により、一般人でも様々な情報が得られるようになり、音楽は多様性を広げていった。あらゆる分野において価値観は多様化し、趣味・思考・嗜好・文化・芸術などは細分化した。
実はこの部分について中野区はかなり進んでおり、中野ブロードウェイを中心とし、様々な個店があり、マニア、オタクが好む街として発展し、中野はサブカルの聖地ともいわれる。
また中野サンプラザのホールではアイドル、演歌、ロック、ポップスなど様々なジャンルのアーティストが公演をしており、サブカルに花を添えている。みんなが共感・同調するための環境を創り、信頼関係を構築していくことが重要である。中野区としては街が大きく変わろうとしているが、この土壌は変わらぬように努力が必要である。
B. 数多の着想からなる多角的戦略(ビジネス)
イノベーションマネジメントとダイバーシティマネジメントを組み合わせ、様々なアイディアから多角的戦略に富んだビジネスを展開する。価値観が多様化している中で旧態依然、一律、一様な発想からでは新しいビジネスを生み出すことは難しい。多様な人々が中野に集まっていれば、多様なアイディアが集まる。
C. 何度も挑戦できる実験環境(研究・開発)
著者はこの概念を最も強調したい。エリアマネジメントとイノベーションマネジメントを組み合わせ、公共空間の高度利用をする。
「失敗は成功のもと」といわれるが、今のご時世、失敗が許される場が少ないと感じる。挑戦するターゲットによっては特区制度の申請をしていく必要がある。
〇共通目標:新たな活力の創出
3つのマネジメントを高度に運用することで中野に人・物・金・情報を結集し、新たな価値・活力が創出できるまちづくりを行っていく。
個人ベースの創業、研究開発、跡地利用などのイメージを列挙する。
【イメージ1:キッチンカー】
今、キッチンカーは空前のブームである。特にコロナ禍でもあり、店舗を持つことに感染対策・資金面・能力面などで自信がない方が飲食業にお試しで参入する上で人気がある。エリアマネジメントで場所を提供し、イノベーションマネジメントでキッチンカーによる店舗立ち上げ、ダイバーシティマネジメントによる様々な意見を集約し、事業展開を行っていく。
例えば、中野駅近くにある大広場である四季の森公園および周辺道路を活用し、キッチンカー事業者に期間限定2年間の無償提供をし、小さな失敗を積むことができ、大成功を掴んでもらう。中野で商売を始め、お客さんが付けば、中野で店舗を持ちたいと考える事業者もおり、空き店舗対策にもつながる。
【イメージ2:ドローン特区】
先日、国立研究開発法人建築研究所等と建築ドローンの共同研究に関する覚書を締結され、研究が進む中で、ゆくゆくは初の都心部地上部を飛行できるドローン特区を目指すということもある。
エリアマネジメントは平面だけではなく3次元空間の活用も含めたものであり、特区申請などでその実現が図れる。多様な技術者によるドローンの新技術開発を進めることができる。詳細は「ドローンの方が人より安全か?中野サンプラザの建物診断で実証実験!」を参照されたい。
【イメージ3:小学校の跡地利用】
小学校の跡地利用として、中野区は病院誘致の考えを示しているが、医療圏域の病床数など地政学的に困難である。
臓器移植に関する医療特区に申請し、インセンティブを持つことで打開できる可能性もある。スウェーデンでは子宮不全のため、妊娠ができない方が、子宮の臓器移植で妊娠出産した事例が増えている。移植後の拒絶反応を防ぐために、出産後に子宮の摘出ができる。
中野区はLGBTQが多いといわれ、そのうちトランスジェンダーの方で子宮の除去摘出手術を行う方がいる。子宮が欲しい方といらない方、こんなに素晴らしいマッチングはない。
iPS細胞の研究が進めば、自分の細胞から作られた臓器を移植する技術も生まれ、その手術ができる病院が必要になるため、都内で先駆けの医療を目指せる。中野区の特性を生かした特区申請をして、地域発展を目指すことも肝要である。
【イメージ4:鉄道上部空間の有効活用】
西武新宿線は中井駅―野方駅間の地下化工事を進めており、その工事が終われば上部空間つまり現在の線路が大きな空間として生まれる。駐輪場、緑道、公園など様々な地元ニーズがあるかもしれないが状況としては、自治体も西武鉄道もコロナによる減収で今すぐに利活用ということは困難かもしれない。
そして直前まで現役だった線路をただ単に除却するのではなく、車両・ドローンを含めた最新機器を活用した維持管理の技術開発をするため実験フィールドとして利用し、踏切部分以外の線路を当面、据え置きにするなど新たな発想の利活用方針も必要と考える。
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最終的には新たな価値・活力どころではなく、大きな最終目標としては日本のシリコンバレーを目指す。
夢を語らせていただきました。